解決金・示談金の支払条項

トラブルを話し合いで解決する書面で、後から問題になるのは支払条項です。承認・金額・期日・方法・遅れたとき・清算を一続きで書きます。

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初回の期限を固定の日付にすると、署名がそろった時点ですでに期限が過ぎていた、ということが起こります。

このページの要点

  • 「支払う」だけでなく「支払義務があることを認める」と書き、何が解決されるのかは清算条項で範囲を決める。
  • 初回の期限は「特定の日又は締結日から7日を経過する日のいずれか遅い日」とし、最後に署名した人が締結日を記入して通知する。
  • 期限の利益の喪失は、1回で当然喪失(一部の支払を含む)、1回+催告、滞納額が2回分で当然喪失、の三つから選ぶ。
  • 清算条項は残すものを明示する。現金で受け取るなら受領証兼清算確認書を作る。

結論:支払条項は「支払義務の承認・金額・期日・方法・遅れたとき・清算」を一続きで書く

トラブルを話し合いで解決するとき、合意の中心になるのは「誰が、誰に、いくらを、いつまでに、どうやって払うか」という支払条項です。示談書や合意書の名前で作られるこの書面は、事情の説明や謝罪の部分に目が行きがちですが、実際に後で問題になるのは、支払が遅れたとき、一部しか払われなかったとき、相手と連絡が取れなくなったとき、そして払い終わった後に別の請求が来たときです。どれも支払条項の書き方で結果が変わります。

アトラス行政書士法人では、さまざまなトラブルの示談書・合意書の支払条項を作成してきました。このページでは、事情の中身には立ち入らず、支払条項の設計だけを取り出して整理します。分割払いのスケジュールの組み方、振込の決まり、期限の利益の喪失の三つの方式、遅延損害金、清算条項、受領証、公正証書化の条です。貸金の返済条件と共通する部分は返済条件の設計、期限の利益の喪失の方式全体は期限の利益の喪失で比べています。

支払義務の承認と、名目の書き方

支払条項の最初には、支払う側が支払義務を負っていることを認める一文を置きます。事務所の示談書では、「乙は、本件に関して甲に対して負う損害賠償債務その他一切の債務を解決するための解決金として、甲に対し、金○円(以下「本件解決金」という。)の支払義務があることを認める」と書きました。「支払う」と書くだけでなく、「支払義務があることを認める」と書くのは、後で金額や義務の存在そのものを争われないようにするためです。

名目を「解決金」とするか、「損害賠償金」「慰謝料」とするかも、書き手が選ぶところです。解決金という名目は、何に対する賠償なのか、法的な評価がどうなのかについて当事者の見方が一致していなくても、「この金額で解決する」という合意を形にしやすい言葉です。一方で、名目を具体的にすると、支払の性質がはっきりします。どちらを選ぶにしても、その金額で何が解決されるのか(何についての請求がなくなるのか)は、後に見る清算条項で範囲を明確にします。

条文例第2条(解決金)・第3条(支払方法) 分割払いの例

1乙は、本件に関して甲に対して負う一切の債務を解決するための解決金として、甲に対し、金○円の支払義務があることを認める。

2乙は、甲に対し、本件解決金を、次のとおり分割して、甲名義の預金口座に振り込む方法により支払う。振込手数料は、乙の負担とする。(1)令和○年○月○日又は締結日から7日を経過する日のいずれか遅い日限り、金○円 (2)前号の支払期日の属する月の翌月から10か月にわたり、毎月15日限り、金○円ずつ(前号の支払期日が令和○年○月中であるときは、令和○年○月から令和○年○月まで)

3乙は、前項の振込みをするときは、振込依頼人の名義を乙の氏名とする。

4第2項各号の支払期日が銀行の休業日に当たるときは、その翌営業日を支払期日とする。

分割のスケジュール:初回の期限と、締結日の決め方

分割払いのスケジュールでは、初回の期限の決め方に工夫が要ります。示談書は、当事者全員の署名がそろうまでに日数がかかることがあり、初回の期限を固定の日付にすると、署名がそろった時点ですでに期限が過ぎていた、ということが起こり得ます。そこで事務所の示談書では、初回の期限を「特定の日又は締結日から7日を経過する日のいずれか遅い日」とし、2回目以降は「前号の支払期日の属する月の翌月から10か月にわたり、毎月15日限り」と、初回の期日を起点に数える形にしました。月によって何年何月までになるかは、括弧書きで例示しています。

この書き方を使うには、「締結日」がいつなのかを決めておく必要があります。同じ示談書では、当事者のうち最後に署名押印した者がその署名押印をした日を締結日とし、最後に署名押印した者が末尾の日付欄に締結日を記載して、直ちにその旨を他の当事者に通知する、と定めました。郵送で順番に署名を集める場合でも、締結日が一つに決まり、そこから初回の期限が計算できます。

初回の期限を「遅い日」で決める支払表の例(日付は説明のための例)

回支払期日支払額
初回令和○年○月○日又は締結日から7日を経過する日のいずれか遅い日金○円
2回目〜11回目初回の期日の属する月の翌月から10か月にわたり毎月15日(初回の月によって、何年何月までになるかを括弧書きで示す)各金○円
合計―金○円(本件解決金と一致)

休業日に当たるときは翌営業日。振込手数料は支払う側の負担。振込依頼人の名義は支払う本人の氏名。

分割のスケジュールを別紙の「支払スケジュール明細表」にまとめ、本文では「別紙に記載された期日・金額に従い、示談金を分割して支払う」と書いた例もあります。回数が多い場合や、月によって金額が違う場合は、別紙のほうが読みやすくなります。その場合も、明細表の合計が本文の金額と一致しているか、明細表が本文と一体のものとして綴じられているかを確かめます。

振込の決まり:口座の特定・手数料・名義・休業日・繰上げ

支払を受ける口座は、金融機関名、支店名、店番、預金種目、口座番号、口座名義まで書いて特定します。振込手数料は支払う側の負担とするのが一般的で、これを書いておかないと、手数料分だけ少ない額が振り込まれ、「一部の支払」になってしまいます。振込依頼人の名義を支払う本人の氏名とすることも定めておくと、家族や第三者の名義で振り込まれて誰の支払なのか分からなくなる事態を防げます。

繰上げの支払も認めておきます。事務所の示談書では、「乙は、いつでも本件解決金の残額の全部又は一部を繰り上げて支払うことができる。残額の一部を繰り上げて支払ったときは、その金額は、最終回の分割金から順次さかのぼって充当するものとし、乙は、これを理由として、その直後の支払期日における分割金の支払を免れない」と書きました。多めに払ったのだから翌月は払わなくてよいだろう、という思い込みが、期限の利益の喪失の引き金になるのを防ぐための一文です。

遅れたとき:期限の利益の喪失の三つの方式と遅延損害金

解決金の分割払いで、支払が遅れたときの扱いは、事務所の書類では三つの方式に分かれています。

解決金の分割払いで使った期限の利益の喪失の方式

  1. 11回の遅れで当然に失う(一部の支払を含む)分割金の支払を1回でも怠ったとき(支払期日までにその期日に支払うべき分割金の全額の支払がなかったときをいい、その一部の支払があった場合を含む。)は、通知又は催告を要せず当然に期限の利益を失い、残額と遅延損害金を直ちに一括して支払う。最も厳しい方式。不足額が少額でも働くので、振込手数料の負担や振込の名義を明確にしておく。
  2. 21回の遅れ+相当期間を定めた催告分割金の支払を1回でも怠り、相当の期間を定めて催告したのに、その期間内に支払をしないときは、残額について期限の利益を失う。払い直す機会を与える方式。うっかりの遅れで一括請求にはならない。
  3. 3滞納額が分割金2回分に達したら当然に失う分割金の支払を怠り、その額が分割金2回分に相当する額に達したときは、通知催告を要せず当然に期限の利益を失う。1回の遅れは許し、遅れが重なったら一括にする。一部ずつしか払わない状態も拾える。

期限の利益を失ったときに一括で請求できるのは、その時点で払われていない残りの全部です。例えば、初回のあと毎月の分割金を10回払う約束で、3回目の分割金が払われずに期限の利益を失えば、3回目から10回目までの8回分が、まとめて直ちに支払うべき額になります。これに、払われなかった3回目の分は本来の支払期日の翌日から、4回目以降の分は期限の利益を失った日の翌日から、遅延損害金が付く、という計算になります。

期限の利益を失う事由には、支払の遅れのほかに、差押えや破産手続開始の申立て、住所の変更の通知を怠って所在が分からなくなったとき、示談書のほかの約束に違反したとき、を並べることもあります。住所の変更の通知は、一定の期間(例えば締結日から3年)又は金銭債務の全部の履行を終えた日の、いずれか遅い日までの間に義務を負わせる形にした例があります。払い終わるまでは、必ず連絡がつくようにしておくためです。

遅延損害金の利率は、事務所の書類では、年3パーセント、年10パーセント、年14パーセント、年14.6パーセントと分かれています。解決金の支払は金銭の貸し借りではないので、利息制限法の上限がそのまま適用されるものではなく、個人どうしの合意なら消費者契約法の対象でもないのが通常です。ただ、高すぎる率は合意の段階で抵抗を生み、後で争いの種にもなります。約定の遅延損害金は、損害賠償の額の予定(民法420条)として定めるものなので、利率と起算日を明確に書きます。期限の利益を失った場合について、「期限の利益を失ったことにより直ちに支払うべきこととなった金額については、期限の利益を失った日」の翌日から遅延損害金を付ける、と起算日を書き分けた例もあります。利率の考え方は利息と遅延損害金で詳しく扱っています。

条文例第4条(期限の利益の喪失)・第5条(遅延損害金)

1乙について次の各号のいずれかに該当する事由が生じたときは、乙は、甲からの何らの通知又は催告を要することなく、当然に前条第2項の分割払による期限の利益を失い、甲に対し、本件解決金の残額及び第5条の遅延損害金を直ちに一括して支払う。(1)分割金の支払を1回でも怠ったとき(支払期日までにその期日に支払うべき分割金の全額の支払がなかったときをいい、その一部の支払があった場合を含む。)。(2)差押え、仮差押え、仮処分若しくは強制執行を受け、又は破産手続開始若しくは再生手続開始の申立てがあったとき。(3)住所等の変更の通知を怠り、甲が乙の所在を知ることができなくなったとき。

2乙が本書に基づく金銭の支払を怠ったときは、乙は、甲に対し、支払を怠った金額に対する支払期日(前項の規定により期限の利益を失ったことにより直ちに支払うべきこととなった金額については、期限の利益を失った日)の翌日から支払済みまで年○パーセントの割合(年365日の日割計算による。)による遅延損害金を支払う。

清算条項と受領証:何が解決され、何が残るのか

支払条項と対になるのが清算条項です。清算条項は、この書面に定めるもののほかに、当事者の間に何らの債権債務がないことを確認する条で、払い終わった後に別の名目で請求されることを防ぎます。事務所の示談書では、「本件に関し、本書に定めるもののほか、甲と乙との間に何らの債権債務が存在しないことを相互に確認する」としたうえで、清算の対象から除くものを号で並べました。本書に基づく権利義務(違約金や損害賠償に関するものを含みます)、締結日の翌日以後の行為に基づく権利義務、そして示談の当事者以外の人との権利義務です。清算の範囲を広く書きすぎると、まだ精算していない別の約束まで消えてしまうので、残すものを明示しておくことが大切です。同じ示談書では、支払う側が、合意に至るまでの話し合いの過程での相手方の言動について何らの請求をしない、という確認も置きました。合意の後で、交渉の途中のやり取りを理由に新しい請求が持ち出されることを防ぐためです。

現金で解決金を受け取る場面では、受け取った側が一枚で確認する「示談金受領証兼清算確認書」も作っています。受け取った額と日付、本件に起因又は関連する一切の損害賠償請求権が清算されて消滅したこと(すでに発生したものに限らず、将来発生し得るもの、現時点で認識していないもの、後日判明するものを含みます)、名目を問わず一切の請求が含まれること、今後民事上いかなる請求もしないこと、その効力が相続人や承継人にも及ぶこと、を受け取った本人が確認して署名押印します。本人が受け取れない場合に備えて、代理人が受領する欄と、委任状の添付が必須であることの注記も設けました。

清算条項・受領証で確かめること

  • 清算の対象になる「本件」の範囲が、書面の前半で特定されているか。
  • 清算から除くもの(本書に基づく権利義務、締結日以後の行為、当事者以外との関係など)を明示したか。
  • 受領証には、受領額・受領日・受領方法(現金か振込か)を書いたか。
  • 将来の損害や、まだ分かっていない損害まで清算する趣旨なら、その旨を明記したか。
  • 代理人が受け取る場合、委任状を添付し、代理人の署名欄を設けたか。

支払う人が二人以上のとき、署名と作成通数

解決金を支払う人が二人以上いる合意では、各人がいくらの支払義務を負うのかを明確にします。事務所で扱った、支払う人が二人いる合意書では、各人が負う支払義務の額を、項を分けて確認しました。各人が自分の額を払えばよいのか(各自の義務)、どちらかが全額を払う義務を負うのか(連帯の義務)を書き分けておかないと、一人が払わなかったときに、もう一人に残りを請求できるのかで争いになります。支払期日と振込先を共通にする場合でも、遅延損害金は「当該不履行者が未払金額について」負う、と書いて、遅れた人だけが負担することを明確にしています。

署名の欄は、当事者ごとに住所(連絡先)・生年月日・氏名(自署)・押印を設けます。現金で受け取る受領証では実印の押印を求め、本人が受け取れない場合の代理人の欄を設けた例もあります。作成通数は当事者の数と同じにし、「本書3通を作成し、各自署名押印の上、各1通を保有する」と書きます。郵送で順番に署名を集めるなら、先に見た締結日の決め方とあわせて、最後に署名した人が他の当事者に通知する手順を書いておきます。

支払の方法を一括と分割から選べるようにした書き方もあります。示談金の合意書で、一括で支払う場合は○月○日までに全額を振り込み、分割で支払う場合は、書面による合意のもと、別紙の支払スケジュール明細表に記載された期日・金額に従って支払う、という選択式にしたものです。選択式にする場合は、どちらを選んだのかを書面で確定させる手順まで決めておかないと、支払う側が都合のよい方を後から主張する余地が残ります。

公正証書化の条と、受け取る側の備え

分割払いの解決金では、支払が止まったときに備えて、公正証書化の条を置くことがあります。事務所の書類では、「乙は、甲からの請求があった場合には、本書に基づく金銭債務に関する執行力を確保する目的で、公証役場において本書の内容を反映した公正証書の作成に誠実に協力する」と定め、公正証書の中で、支払を怠った場合には直ちに強制執行に服する旨の陳述を付すことをあらかじめ承諾すること、本人確認書類や印鑑登録証明書の提出、署名押印、公証人との面談などの手続に誠実かつ速やかに対応する義務を負うこと、を続けて書きました。公正証書化の際には本人が出頭し、必要な手続を誠実に履行する、とした例もあります。

この条を置くときは、根拠を正確に書きます。強制執行認諾文言付きの公正証書が債務名義になる根拠は、民事執行法22条5号です。そして、公正証書の対象になるのは「金銭の一定の額の支払」なので、金額と期日が確定した支払条項であることが前提です。違約金のように、違反の回数によって額が変わる約束は、公正証書にするときに目的の価額の算定や執行の要件で扱いが難しくなります。公正証書の要件と手数料は公正証書にするときで扱っています。

聞き取り票 支払条項を組む前に

  1. 一括で払うか、分割で払うか。分割なら初回の額と期限、2回目以降の額・回数・毎月の期日は。初回の期限は、署名がそろう日との関係を考えて「遅い日」で決める方法があります。
  2. 締結日はどう決めるか。署名は対面か、郵送で順番に集めるか。最後に署名した者が日付を書いて他の当事者に通知する、と決めておくと、締結日が一つに決まります。
  3. 遅れたら、1回で一括にするか、催告を挟むか、2回分の滞納で一括にするか。支払う側の資力と、受け取る側の安心のバランスで選びます。
  4. 清算の範囲に含めないものはあるか。まだ精算していない別の約束や、当事者以外との関係は、明示して除外します。
  5. 公正証書にする可能性はあるか。あるなら、協力の義務と期限、費用の負担を書いておきます。

よくあるご質問

示談金の分割払いでは、初回の期限をどう決めればよいですか。

署名がそろうまでに日数がかかることがあるので、「特定の日又は締結日から7日を経過する日のいずれか遅い日」のように決める方法があります。2回目以降は、初回の期日の翌月から毎月○日、と初回を起点に数えます。

分割払いが1回遅れたら、残りを一括で請求できますか。

支払条項に「1回でも怠ったときは期限の利益を失う」と定めていれば請求できます。ほかに、催告を挟む方式や、滞納額が分割金2回分に達したら一括にする方式もあり、事情に合わせて選びます。

清算条項には何を書けばよいですか。

本書に定めるもののほかに債権債務がないことを確認し、清算から除くもの(本書に基づく権利義務、締結日以後の行為、当事者以外との関係など)を明示します。広く書きすぎると、別の約束まで消えるので注意します。

現金で受け取るとき、何を作ればよいですか。

受け取った額・日付・方法と、それによって何についての請求が清算されたのかを確認する受領証を作り、受け取った本人が署名押印します。代理人が受け取るなら、委任状を添付します。

解決金の遅延損害金は、年何パーセントにすればよいですか。

事務所の書類では年3パーセントから年14.6パーセントの範囲で決めています。高すぎる率は争いの種になるので、支払う側の事情も考えて決め、利率と起算日、日割計算の基準を明確に書きます。

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