このページの要点
- 貸付は返す義務のあるお金(民法587条)、贈与は返す義務のないお金(同法549条)。書面の題名・目的・返済の条を同じ向きにそろえる。
- 返還の時期を決めない貸付は、貸主が相当の期間を定めて催告できる(民法591条1項)。請求の方法と請求から返済までの日数を書いておく。
- 書面によらない贈与は履行前なら各当事者が解除できる(民法550条)。贈与契約書には、金額・渡す日と方法・条件・返還の有無を書く。
- 一部を贈与にするなら債務の免除(民法519条)の書面を、残りを貸付にするなら返済の記録を残す。
結論:「貸す」か「あげる」かを先に決め、書面の言葉を混ぜない
親が子の住まいや事業、学費、生活の立て直しのためにまとまったお金を出すとき、書面を作るなら選択肢は二つです。返してもらう前提で「借用書(金銭消費貸借契約書)」にするか、返してもらわない前提で「贈与契約書」にするかです。迷う場面では、「できるだけ返してほしいが、厳しくは求めたくない」「余裕ができたら返してくれればいい」「一部は助けるつもりであげる」といった、貸付と贈与の中間の気持ちが出てきます。その気持ちを一つの書面の中に「貸付だが贈与的な要素も含む」のような言葉で書き込むと、後になって、その金額が返すべきお金だったのか、もらったお金だったのかが、当事者の記憶と書面の言葉の間で食い違います。
このページの結論は三つです。第一に、お金の性質は「返す義務があるか」で決め、その性質を書面の題名・目的の条・返済の条で同じ向きにそろえます。第二に、返してもらうなら、返還の時期を決めない場合でも、請求から返済までの日数と、返したことの記録の残し方を書きます。第三に、あげるなら、何を・いつ・どう渡すかを贈与契約書に書き、書面にした贈与は一方的には解除できないことを理解したうえで結びます。一部をあげて残りを貸す場合は、一つの書面の中でも、部分ごとに性質を書き分けます。
親族間の貸付の書面では、当事者の気持ちを前文や目的の条に書き込んだ長い構成にするより、利息・返済・遅延損害金などの条件で気持ちを示す短い構成のほうが、貸付という性質がぶれにくくなります。親族間の貸付の基本的な書き方は借用書と金銭消費貸借契約書のページで扱っています。このページでは、その貸付を贈与とどう書き分けるか、返す約束をどう守れる形にするか、贈与にするなら何を書くか、に絞って整理します。
書面を作る前に、まず当事者で確かめること
- このお金は、原則として返してもらうものか、返してもらわないものか。
- 返してもらうなら、いつから、どのくらいのペースで返す想定か。決まっていないなら、決まっていないことを書面で認めるか。
- 渡す日と、渡す方法(振込か現金か)、振込なら送金元と送金先の名義は誰か。
- 一部だけをあげて、残りを貸す場合、どの部分がどちらか。
- ほかの家族(きょうだいなど)に、この援助のことを伝えるか。伝えないなら、書面の保管場所はどこか。
「貸す」と「あげる」の違いを、民法の条文でそろえる
お金の援助の書面を考えるときは、まず貸付と贈与の定義の違いを条文で確認しておくと、書面の言葉を選びやすくなります。ここで挙げる条文は、2026年10月21日時点の現行の民法を e-Gov 法令検索で確認したものです。
貸付と贈与に関する民法の条文
- 民法587条消費貸借は、借りた物と種類・品質・数量の同じ物で返すことを約束して、金銭その他の物を受け取ることで効力を生じます。お金の貸し借りは、お金を受け取った時点で成立します。
- 民法587条の2書面(電磁的記録を含みます)でする消費貸借は、貸す約束と返す約束だけで効力を生じます。借主は、お金を受け取るまでは契約を解除できます。
- 民法589条貸主は、特約がなければ利息を請求できません。無利息の貸付は、特約を置かない形で足ります。
- 民法591条返還の時期を定めなかったときは、貸主は相当の期間を定めて返還を催告できます。借主は、返還の時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返せます。
- 民法549条贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾することで効力を生じます。
- 民法550条書面によらない贈与は、各当事者が解除できます。ただし、履行の終わった部分は解除できません。
両者の違いは、返す義務があるかどうかにあります。消費貸借では、借主は借りた金額と同じ金額を返す約束をしており、利息を付けない無利息の貸付であっても、返す義務は変わりません。贈与では、受け取った側に返す義務はありません。ですから、書面の題名を「金銭消費貸借契約書」にしながら、本文に「返済を求めない」「実質は贈与」といった言葉があると、条文の性質と書面の言葉が食い違います。その食い違いを、後から当事者や関係者がどちらの方向にも使えてしまいます。
もう一つ、書面の有無の影響も確認しておきます。贈与は、書面がなくても成立します(民法549条)が、書面によらない贈与は、履行が終わる前なら各当事者が解除できます(同法550条)。反対に、書面にした贈与は、この規定による解除はできません。口頭で「あげる」と言っただけで、実際にはまだ渡していない部分については、あげる側が気持ちを変えれば解除できるという意味です。一方で、すでに振り込んだ部分は、書面がなくても解除できません。援助の途中で気持ちが変わる可能性があるときと、約束を確実に守ってもらいたいときとでは、書面にするかどうかの意味が違ってきます。
親族間の無利息・期限なしの貸付:返還時期を決めないときの請求のしかた
親から子への貸付では、利息を付けず、返す時期も決めない形が選ばれることがよくあります。無利息は、利息を請求しないという特約を置かないだけで足りるので(民法589条)、書面にはその旨を書いておけば十分です。難しいのは返す時期です。時期を決めないなら、民法591条1項により、貸主は相当の期間を定めて返還を催告でき、借主はいつでも返せます(同条2項)。つまり、法律上の仕組みは用意されているのですが、「相当の期間」が何日なのかは条文では決まっていないので、当事者がもめる余地があります。
返還の時期を決めない貸付の書面では、一般に、返済期日を別に定めず、貸主から明示的な請求があったときに限り、合理的な期間内に返済する、という書き方が見られます。注意したいのは、この定めに加えて、返還の時期を定めなかった消費貸借に関する民法の規定を適用しないものとする、という趣旨の一文まで置く書き方です。民法591条は、時期を定めない場合の催告と、借主がいつでも返せることの枠組みを用意しています。これを適用除外にすると、かえって請求から返済までの扱いが読みにくくなります。条文の枠組みの上に、請求の方法と返済までの日数を重ねて書くほうが、読み手に誤解を与えません。
書き方の例(一般的な例):返還の時期を決めない貸付
| 場面 | 避けたい書き方 | 書き方の例 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 返済の条 | 返済期日を定めないうえ、民法の規定を適用しない旨まで書く。 | 返済期日は定めず、貸主から書面等による返済の請求があった場合に限り、借主は請求から○日以内に返済する。利息を付さず、遅延損害金も発生しない。 | 民法591条の枠組みを排除せず、請求の方法と返済までの日数を数字で書くほうが、読み手に誤解を与えません。 |
| 書面の分量 | 趣旨、背景、使途、報告、解除などを並べた長い構成。 | 貸付金額と方法、利息と返済、担保・保証の有無、使途、通知、準拠法・管轄に絞る。 | 家族間で実際に運用できる条に絞ると、守られていない条項を抱えることがなくなります。 |
| 目的を書く条 | 返済を厳格に求めない意図や、贈与的な性質があることを本文に書く。 | 目的の条では貸付であることだけを書き、関係への配慮は、利息なし・期日の定めなし・遅延損害金なしという条件そのもので示す。 | 返す義務の強さを書面に書き込むと、貸付の性質が読み手によって変わります。条件で示すほうが、性質はぶれません。 |
請求の方法を書くときは、「書面等」の「等」に何が入るのかを書いておくと、請求の記録が残ります。電子メールやメッセージアプリの通知を含めるなら、そのアドレスや連絡手段を契約書に書いた「届け出た連絡先」に結び付けます。請求を受けてから返済までの日数も、例えば30日のように数字で決めておけば、「相当の期間」の争いを避けられます。親子の間でも、請求の日付を示せる形で請求しておくことが、後に債権があることを示す手がかりになります。
条文例第○条(返済) 請求の方法と返済までの期間を書く型
1借主は、本件貸付金について、返済期日を定めない。貸主は、書面又は電子メールにより、借主に返済を請求することができる。
2借主は、前項の請求が借主に到達した日から30日以内に、貸主の指定する口座に振り込む方法により、本件貸付金の全部又は一部を返済する。振込手数料は借主の負担とする。
3借主は、第1項の請求の有無にかかわらず、いつでも本件貸付金の全部又は一部を返済することができる。
第3項は民法591条2項と同じ内容です。条文にも書いておくと、借主が早く返したいときに迷いません。請求の方法に電子メールを含めるなら、連絡先の変更の届出の条とあわせて読めるようにしておきます。
時効の点も触れておきます。債権は、債権者が権利を行使できることを知った時から5年、または行使できる時から10年で時効により消滅します(民法166条1項)。返還の時期を決めない貸付では、貸主が請求しなければ返済期日が来ないように見えますが、時効の起算点がいつになるかは、一律に決められる話ではありません。長い年月が過ぎる前に、貸主が請求をして記録を残すか、借主から「借りたお金が残っている」という承認をもらうことが大切です。承認があれば、時効はその時から新たに進行を始めます(同法152条1項)。承認の書き方は債務承認・弁済計画のページで扱います。
返したことの記録の残し方:返す側にも貸す側にも必要な理由
親子の間の貸付では、返済の記録が曖昧になりがちです。少しずつ返してもらっているのに記録がない、現金で手渡しした、返したつもりが振込の名義が別だった、というのは典型的な場面です。返済の記録は、貸主にとっては残額を主張する根拠、借主にとっては返した事実を示す根拠になります。援助が貸付なのか贈与なのかの区別が、あとで当事者の外の人(きょうだい、配偶者、金融機関など)に説明を求められる場面でも、この記録が役に立ちます。
返済の記録を残す方法
- 返済は、借主の口座から貸主の口座への振込を基本にする。振込依頼人名義は借主本人にする。
- 現金で受け取るときは、その場で受領を書面に書き、日付・金額・残額を記録して、双方で控えを持つ。
- 貸付の総額、返済済みの額、残額を、一覧表に一行ずつ書き足していく。残額の計算は貸主と借主の両方が確認する。
- 一部を返してもらったときに、残りを免除したことにならないよう、「残額は引き続き返済の対象である」ことを書いておく。
- 返済が止まったり、猶予を求められたりしたときは、口頭ではなく書面で、何をいつまで待つかを書いて確認する。
返済の記録表の例(金額は記入欄のイメージ)
| 日付 | 返済額 | 振込名義 | 残額 | 確認 |
|---|---|---|---|---|
| 令和○年○月○日 | ○円 | 借主本人 | ○円 | 貸主・借主の双方が確認 |
| 令和○年○月○日 | ○円 | 借主本人 | ○円 | 貸主・借主の双方が確認 |
| 令和○年○月○日 | ○円(現金) | 手渡し(受領書あり) | ○円 | 受領書の控えを添付 |
毎回の返済の都度、残額を書き足します。年に一度、残額を貸主と借主が確認して署名する形にしておくと、時効の更新にも役立ちます。
一部を返してもらうときに気を付けたいのは、残りを免除したことにならないようにすることです。債権者が債務者に債務を免除する意思を表示すると、その債権は消滅します(民法519条)。親子の間では、「もういいよ」という一言が、免除の意思表示と読まれることがあります。免除したくないなら、一部の受領のたびに、残額が残っていることを書面で確認しておくべきです。返済の猶予や変更の書き方は返済猶予・条件変更・完済確認のページで扱います。
なお、受領を示す書面(金銭受領確認書)や、立替金を貸付として確定させる一覧表の書き方はお金を渡した証拠と債務額の確定のページにまとめています。親から子へ最初に渡すお金についても、渡した日と方法の記録は同じ考え方で残します。
贈与にするなら:贈与契約書に書く項目
返してもらうつもりがない援助は、贈与契約書にします。贈与契約書は、あげる側(贈与者)ともらう側(受贈者)が、何を、いつ、どうやって渡すかを書く短い書面ですが、書く項目が足りないと、後で「いつの約束だったのか」「条件があったのではないか」と争われます。贈与は、書面によらない場合には履行の前に解除できる(民法550条)ため、書面にする意味は、約束を確かなものにすることにあります。
贈与契約書に書く項目
- 当事者:贈与者と受贈者の氏名・住所。受贈者が未成年のときは、その親権者の関与を確認する。
- 贈与の対象と金額:金額を数字と漢数字で書く。何回かに分けて渡す場合は、各回の金額と日を書く。
- 渡す日と方法:振込なら送金元と送金先の口座名義。現金なら受領した日と場所を書いて受領を確認する。
- 贈与の目的と、目的に使うことが条件かどうか。条件にするなら負担付贈与の条を置く。
- 返還の有無:返還を求めないこと。ただし、一定の事由があるときに返還を求めるなら、その事由を具体的に書く。
- 解除できる場合:負担を履行しないときの扱いなど。
- 作成通数と保管。贈与を知らせる範囲(家族に伝えるか)を決めたなら、その旨も書く。
条文例贈与契約書(要点の条文例)
1贈与者は、受贈者に対し、金○円を無償で与える意思を表示し、受贈者はこれを受諾した。
2贈与者は、令和○年○月○日までに、受贈者の指定する口座(金融機関名・支店名・口座種別・口座番号・口座名義)に振り込む方法により、前項の金員を交付する。振込手数料は贈与者の負担とする。
3受贈者は、本件贈与金を返還する義務を負わない。ただし、第○条に定める場合は、この限りでない。
4本契約に定めのない事項は、贈与者と受贈者が誠実に協議して定める。
「ただし、第○条に定める場合は」の部分は、返還を求める場面を置くときだけ使います。置くなら、事由を具体的に書かなければ、あとで貸付なのか贈与なのかが曖昧になります。
贈与の条文には、書面にするときに意識しておきたい規定がいくつかあります。贈与者は、贈与の目的である物または権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、または移転することを約したものと推定されます(民法551条1項)。負担付贈与(例えば「住宅の購入資金を贈与するかわりに、同居して親の世話をする」)は、その性質に反しない限り、双務契約の規定が準用されます(同法553条)。受贈者が負担を履行しないとき、贈与者は契約の解除を考えられるということです。ただし、負担の内容があいまいだと、履行したかどうかで争いになります。負担を付けるなら、内容を具体的に、期間や頻度も書きます。
毎年・毎月決まった額を渡し続ける「定期贈与」は、贈与者または受贈者の死亡によって効力を失うと定められています(民法552条)。長い期間にわたって渡し続ける約束をするときは、死亡によって約束が終わることを前提に書きます。死亡後も続けたい場合は、贈与契約の問題としては整理しきれないため、別の仕組みを考えることになります。ここでは、定期贈与の約束が当事者の死亡で終わる点だけを押さえておいてください。
贈与した金額に関する税務の取扱いは、書面の書き方とは別の問題で、別途確認が必要です。契約書には、渡した日・金額・方法・条件という事実を正確に書くことが、あとの確認の土台になります。
一部は贈与、残りは貸付:一つの書面の中で書き分ける
「全部で○円出すが、半分はあげて、半分は貸す」という援助も珍しくありません。この場合に、一つの書面に「貸付および贈与」と書いて済ませると、どの金額が返済の対象なのかが分からなくなります。書き分けの方法は、大きく二つあります。
一部を贈与、残りを貸付にするときの二つの型
- 1書面を二つに分ける贈与契約書と金銭消費貸借契約書を別々に作る。それぞれに金額・渡す日・方法を書く。性質が混ざらず、一方を後から変更しても他方に影響しにくい。振込も別々にしておくと、通帳でも区別がつく。
- 2一つの書面で部分ごとに書く第1部「贈与」、第2部「貸付」のように条を分け、それぞれの金額、渡す日、返済の有無を明記する。書面が一つで済むが、題名と前文で全体の性質を一言で決めつけない。返す部分の返済条件は貸付の条にだけ書く。
一度は貸付として渡したお金の一部を、あとから贈与に切り替えたいという場面もあります。この場合は、債務を免除する意思表示(民法519条)が必要になります。「返さなくていい」という口頭の一言ではなく、免除する金額と日付を書いた書面を作り、免除後の残額を確認しておきます。免除は債権者の一方的な意思表示で成り立つので、借主の承諾を得ることは法律上の要件ではありませんが、書面に借主の確認欄を設けておけば、免除の範囲について食い違いが起こりにくくなります。免除した部分が、その後に返済の対象から外れることを、借主にも明確にしておくという趣旨です。
貸付・贈与・一部免除の書き方の比較
| 場面 | 題名・性質 | 書くこと | 避けたい書き方 |
|---|---|---|---|
| 全額を返してもらう | 金銭消費貸借契約書(借用書) | 金額、渡す日と方法、利息の有無、返済の方法と時期、遅れたときの扱い。 | 「返済は厳格に求めない」と本文に書く。 |
| 返してもらわない | 贈与契約書 | 金額、渡す日と方法、返還を求めないこと、条件があればその内容。 | 題名は贈与なのに、返済期日や遅延損害金の条が残っている。 |
| 一部は贈与、一部は貸付 | 二つの書面、または部分ごとの条 | 贈与の部分と貸付の部分の金額を別々に書く。振込も別にしておく。 | 合計額だけを書いて、内訳を書かない。 |
| 貸したあとに一部を免除する | 債務免除(変更合意書) | 免除する金額と日付、免除後の残額、残額は引き続き返済の対象であること。 | 「もう返さなくていい」と口頭で言うだけ。 |
子が未成年のとき:貸付と贈与で確認する点が違う
援助を受ける子がまだ未成年のときは、契約の当事者としての扱いが変わります。民法は年齢18歳をもって成年とし(民法4条)、未成年者が法律行為をするには、原則としてその法定代理人(通常は親権者)の同意を得なければならず、同意のない法律行為は取り消すことができます(同法5条1項・2項)。ただし、単に権利を得、または義務を免れる法律行為は、同意なしでもできます(同法5条1項ただし書)。
この条文を貸付と贈与にあてはめると、見え方が違います。贈与を受けるだけであれば、受け取る側は「単に権利を得る」立場にあると考えるのが一般的ですが、負担付贈与のように子に義務が生じる内容を付けるときは、別に考える必要があります。これに対して、貸付を受ける子は返還の義務を負うので、「単に権利を得る」行為とはいえず、親権者の同意や関与を前提に書面を作ることになります。
親権者が自分の子に貸す、あるいは親権者と子の間で書面を交わす場面では、利益が相反する行為にあたるかも問題になります。民法826条1項は、親権を行う父または母とその子との利益が相反する行為については、親権者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならないと定めています。どのような行為が利益相反にあたるかは、行為の内容や外形によって判断が分かれうるため、ここで一律の結論は示せません。書面を作る前に、受け取る子の年齢と、書面に子として署名する人が誰になるかを確認しておく、というところまでを押さえておいてください。
きょうだい・他の相続人との関係と、援助の経緯の記録
親から子への援助は、将来、相続の場面で、ほかの子(きょうだい)との関係で問題になることがあります。民法903条1項は、共同相続人の中に、被相続人から、婚姻や養子縁組のため、または生計の資本として贈与を受けた者があるときは、その贈与の価額を相続財産に加えたものとみなして相続分を計算する、という仕組みを定めています。援助が「生計の資本としての贈与」と評価されれば、相続のときに考慮されうるということです。一方、貸付であれば、返済されていない残額は、債権として相続財産の一部になりえます。
この点で、書面は事実の記録になります。援助がいつ、いくら、どのような名目で行われ、返す約束だったのかそうでなかったのかが書面に残っていれば、相続のときに、きょうだいの間で「あれは貸したものだった」「いや、もらったものだった」と言い分が分かれるのを避けやすくなります。もっとも、援助をどう評価するかは、書面の言葉だけで決まるものではなく、実態によって変わることもあるため、書面が万能というわけではありません。だからこそ、書面と実際の振込の記録、返済の記録が矛盾しないようにそろえます。
聞き取り票 親族間の援助を書面にする前に
- このお金は、返してもらうつもりか、返してもらわないつもりか。一部だけか。書面の題名と、返済・返還に関する条の向きを決めるためです。「どちらともいえない」と答えが出るなら、書面を作る前に、当事者でそこを話し合います。
- 渡す日と方法は決まっているか。すでに渡したお金を書面にするのか。これから渡すお金と、すでに渡したお金とでは、前文の書き方が違います。渡した日と方法を、通帳や振込の記録で確かめて書きます。
- 返してもらうなら、返す時期は決められるか。決められないなら、請求から何日で返すか。返還の時期を決めない場合の「遅れの起点」を作るためです。数字で決めておけば、相当の期間を巡る争いを避けられます。
- ほかの家族にこの援助を伝えるか。伝えないなら、書面をどこに保管するか。家族の中で情報の共有に差があると、後で説明が必要になった場面に備えにくいためです。書面の保管と、内容を知らせる範囲も決めておきます。
- 返してもらう場合、保証人や担保を付けるか。付けないと決めるなら、書面で確認するか。家族間の貸付では「保証も担保も付けない」と決めることが多く、それを書面に明記しておけば、後で新たな要求が出てきたときの整理がつきます。
親族間の貸付でも、返済が長期にわたる、金額が大きい、と感じる場合には、強制執行認諾文言付きの公正証書にする方法や、分割の返済表を付ける方法も考えられます。ただし、家族の関係に与える影響も大きいため、書面の強さは関係に合わせて選びます。公正証書の要件は公正証書(強制執行認諾)にするとき、分割の組み立ては返済条件の設計、返済が遅れたときの条は期限の利益の喪失のページを参照してください。
よくあるご質問
親から子にお金を渡すとき、借用書と贈与契約書のどちらにすればよいですか。
返してもらう前提なら借用書(金銭消費貸借契約書)、返してもらわない前提なら贈与契約書です。性質は返す義務があるかどうかで決まるので、書面の題名・目的の条・返済の条を同じ向きにそろえます。一部をあげて一部を貸すなら、書面を二つに分けるか、一つの書面の中で部分ごとに条を分けます。
無利息で、返す時期も決めない貸付でも契約書は必要ですか。
必要性は高いです。返還の時期を決めない貸付では、貸主が相当の期間を定めて返還を催告でき、借主はいつでも返せます(民法591条)。ただ、相当の期間が何日かは条文では決まっていないので、請求から返済までの日数と請求の方法を書面に書いておくと、返す約束がはっきりします。
契約書に「贈与的な要素を含む」と書いてもよいですか。
避けたほうが安全です。貸付の書面に贈与のような言葉を書くと、貸付であること自体が読み手によって変わりえます。返済を厳しく求めない気持ちは、利息を付けない、期日を決めない、遅延損害金を取らないといった条件で示します。
書面で贈与の約束をしたあとで、やめることはできますか。
書面によらない贈与は、履行の終わっていない部分について各当事者が解除できますが(民法550条)、書面にした贈与は、この規定による解除はできません。約束を確実にするために書面にするのですから、結ぶ前に、渡す金額・時期・条件を当事者で確認しておくことが大切です。
一部を返してもらったあとで、残りを返さなくていいことにしたいときは。
債務の免除の意思表示で、その債権は消滅します(民法519条)。「もういいよ」という一言ではなく、免除する金額・日付・免除後の残額を書いた書面を作り、借主にも確認してもらいます。免除するつもりがないときは、一部を受け取るたびに、残額が引き続き返済の対象であることを書面で確認しておきます。
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