このページの要点
- 抵当権は契約で成立し、登記は第三者への対抗要件。順位は登記の前後で決まる(民法176条・177条・373条)。
- 契約書には、貸付契約と一致させた被担保債権と、登記事項証明書どおりの物件の表示を書く。利息等は条文上、最後の2年分まで(民法375条)。
- 追加の貸付があるなら根抵当権。極度額と、担保する債権の範囲を限定して定める(民法398条の2)。
- 家族の不動産を担保にするときは物上保証人の立場を説明する。完済時の受取証書と抹消書類の交付を契約書に書く(民法486条・487条)。
結論:抵当権設定契約書は「何の借金を」「どの不動産で」「どこまで」担保するかを特定する書面である
個人間でまとまったお金を貸すとき、返済が滞った場合に備えて、借主や借主の家族が持つ土地・建物を担保にしたい、という場面があります。そのための方法が抵当権です。抵当権者は、債務者または第三者が占有を移さないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自分の債権の弁済を受ける権利をもちます(民法369条1項)。担保に入れても、不動産には住み続けられます。それが、質権などと違う抵当権の特徴です。
このページは、民法・不動産登記法などの条文にもとづく一般的な情報の整理です。特定の貸付や特定の不動産への当てはめではありません。登記の申請の代理は司法書士の業務ですから(司法書士法3条1項1号)、ここでは登記手続そのものには立ち入らず、契約書に何を書くかに絞ります。貸付そのものの契約書は借用書と金銭消費貸借契約書、保証については連帯保証契約書・連帯保証人承諾書で扱っています。
結論を先に並べます。
- 抵当権は契約だけで成立し、登記は第三者への対抗要件。物権の設定は当事者の意思表示だけで効力を生じ(民法176条)、不動産の物権の得喪・変更は登記をしなければ第三者に対抗できない(同法177条)。
- 契約書の中心は、被担保債権(担保される借金)と目的の不動産の特定。貸付契約の日付・元本・利息・遅延損害金と、登記事項証明書どおりの物件の表示を書く。
- 利息や遅延損害金は、抵当権を行使できる範囲に条文上の限りがある。満期となった最後の2年分についてのみ、抵当権を行使できる(民法375条)。この限りは、後順位の担保権者など他の利害関係人との関係で問題になるとの説明が一般的。
- 1回限りの貸付は普通抵当権、追加で貸す予定があるときは根抵当権。根抵当権は極度額を決め、担保する債権の範囲を限定して定める(民法398条の2)。
- 家族の不動産を担保にするときは、設定する人(物上保証人)が借主と別人になる。物上保証人の立場と、保証人との違いを書面で説明する。
- 完済したら、抹消のための書類を渡す約束を、契約書に書いておく。弁済で借金が消えても、登記は自動では消えない。
抵当権付きの貸付を考えるときに、手元に置くもの
- 貸付の金銭消費貸借契約書(日付、元本、利息、遅延損害金、返済方法)
- 担保にする不動産の登記事項証明書(所有者、先に付いている抵当権の有無)
- 設定する人の本人確認資料と、実印・印鑑証明書の用意の見通し
- 先順位の抵当権(住宅ローンなど)の残額の見込み
- 保証人の有無と、保証人が個人か法人か
契約書の骨格:貸付の契約と、抵当権設定の契約を分けて考える
抵当権付きの貸付は、書面の上で二つの契約でできています。一つは、お金を貸して返してもらう金銭消費貸借契約(被担保債権を生む契約)です。もう一つは、その債権を不動産で担保するための抵当権設定契約です。二つを一つの書面にまとめることも、別々の書面にすることもできますが、抵当権は債権を担保するための権利なので、どの債権を担保するのかが特定されていなければ、書面の意味がなくなります。
書面を分けるか、まとめるかを選ぶ基準は、次の三つです。①返済条件が変わる可能性があるか。変わるなら、貸付の契約書だけを変更できるよう、別の書面にしたほうが管理しやすい。②登記の手続で使う書面を、第三者(登記を扱う専門家)に見せる場面があるか。ある場合、貸付の細かい条件まで見せたくなければ、設定契約を独立の書面にする。③設定する人が借主本人か、別人か。別人なら、設定する人は貸付の当事者ではないので、設定契約だけの書面にして、設定する人に必要な説明を集める。
抵当権付きの貸付の全体の流れ(書面の見取り図)
- 貸付の契約金銭消費貸借契約書で、元本・利息・返済方法を決める
- 設定の契約抵当権設定契約書で、担保する債権・不動産・範囲を決める
- 登記設定の登記を申請する(登記の手続は司法書士の業務)
- 返済返済の記録を残し、受取証書を交付する
- 完済・抹消抹消のための書類を渡し、抹消登記を行う
契約書は流れの最初と最後を受け持つ。途中の「登記」が済んで初めて、第三者に対しても順位を主張できる。
被担保債権の特定:貸付契約の内容を、そのまま写す
被担保債権の特定は、貸付契約の日付、貸主と借主、元本、利息の定め、遅延損害金の定めを、貸付契約書と一字違わず書き写すことが基本です。登記の記載とも結びつくため、ここが食い違うと、登記の内容と契約の内容にずれが生じます。登記事項には、債権額、債務者の氏名・住所(不動産登記法83条1項1号・2号)、利息に関する定め、民法375条2項の損害賠償額の定め、債権に付した条件などがあるので(同法88条1項各号)、契約書に書く内容は、登記に載る項目をカバーできるようにしておくのが実用的です。
条文例第1条(担保する債務)
1抵当権設定者(以下「設定者」という。)は、債務者が抵当権者に対して、令和○年○月○日付金銭消費貸借契約書に基づいて負担する次の債務(以下「本件債務」という。)を担保するため、第2条記載の不動産に抵当権を設定し、抵当権者はこれを受諾する。(1) 元本 金○円 (2) 利息 年○パーセント (3) 遅延損害金 年○パーセント (4) 上記に付随する費用
2本件債務の返済方法及び期限は、前項の金銭消費貸借契約書の定めによる。同契約書が変更されたときは、変更後の内容による。ただし、元本を増額する変更は、設定者が書面で同意したときに限り、抵当権の担保の範囲に含まれる。
二項で、貸付の条件が変わったときの扱いを決めておく。設定者が借主以外のとき、設定者の知らない間に債務が増えないようにする。
目的不動産の特定:登記事項証明書の表示どおりに書く
土地は所在・地番・地目・地積、建物は所在・家屋番号・種類・構造・床面積、というように、登記事項証明書の表示どおりに書きます。住所表示(住居表示)と、登記の所在・地番は違うことが多く、住所だけで物件を特定すると、登記の申請で使えません。土地と建物を別々に担保に入れる場合は、それぞれを書きます。同じ債権を数個の不動産で担保するときは、共同抵当になります。同時に配当するときの按分や、一つの不動産だけを先に配当するときの扱いは、民法392条に定めがあります。
土地とその上の建物が同じ所有者に属する場合に、一方だけに抵当権を付けて実行されると、法定地上権が成立することがあります(民法388条)。土地・建物の両方を担保に入れるか、片方だけにするかは、実行されたときの利用権の見通しにも関わるため、契約書で対象を明示します。
条文例第2条(目的不動産)
1設定者は、次の不動産(以下「本件不動産」という。)に、抵当権を設定する。(1) 土地 所在 ○○ 地番 ○○ 地目 ○○ 地積 ○㎡ (2) 建物 所在 ○○ 家屋番号 ○○ 種類 ○○ 構造 ○○ 床面積 ○㎡
2本件不動産に付加して一体となっている物に対しても、抵当権の効力が及ぶ(民法370条本文)。設定者と抵当権者が別段の定めをするときは、次のとおりとする。○○
二項は、民法370条ただし書の「別段の定め」を置く場合の書き方。別段の定めは登記事項にもなる(不動産登記法88条1項4号)。
担保される範囲:利息・遅延損害金は最後の2年分まで
抵当権者が利息その他の定期金を請求できるときでも、抵当権を行使できるのは、満期となった最後の2年分についてだけです。ただし、それ以前の分も、満期後に特別の登記をしたときは、その登記の時から抵当権を行使できます(民法375条1項)。債務不履行による損害賠償(遅延損害金)も、最後の2年分で、利息と通算して2年分を超えられません(同条2項)。長期にわたる貸付では、元本は全額が担保でも、利息や遅延損害金には、この2年分という条文上の限度があります。債務者や設定者との間でこの限度がどう働くかは見解が分かれうるため、ここでは条文の内容の紹介にとどめます。契約書には民法375条の範囲で担保する旨を書いておくと、貸主にも設定者にも担保の見通しが立ちます。
条文例第3条(抵当権の担保の範囲)
1本抵当権は、本件債務の元本のほか、利息及び債務不履行による損害賠償について、民法375条に定める範囲で、本件不動産を担保するものとする。
2前項の損害賠償の額は、年○パーセント(年365日の日割計算)とする。
遅延損害金の率は、貸付契約書の率と一致させる。上限の考え方は「利息と遅延損害金の上限」で整理している。
貸付そのものには、利息制限法の上限があり(同法1条)、抵当権を付けても緩むわけではありません。名目が礼金・手数料でも、契約の締結と弁済の費用を除く元本以外の受取りは利息とみなされ(同法3条)、遅延損害金の賠償額の予定にも上限があります(同法4条1項)。具体的な率の考え方は利息と遅延損害金の上限で整理しています。
抵当権設定契約書を作る前の問い
- 担保にする不動産の所有者は誰か。借主本人か、家族か。共有か。設定者が誰かで、契約の当事者・署名の人が変わる。共有のときは、共有持分だけを担保にするのか、共有者全員が設定するのかも決める。
- 登記事項証明書で、すでに別の抵当権が付いているか。順位は登記の前後で決まる(民法373条)。先順位の残額が大きいと、担保としての実質が薄くなる。
- 貸付の返済方法が変わる可能性はあるか。追加で貸す予定はあるか。追加融資の予定があれば、普通抵当権ではなく根抵当権を考える(次の節)。
- 借主以外に保証人を立てるか。保証人と物上保証人は別の立場。書面を分けて説明するかを決める。
- 担保にする不動産に、借主が住んでいるか。住まいを担保にするときは、実行されたときの影響が大きいので、説明の書面を丁寧にする。
普通抵当権と根抵当権:どちらを選ぶか
抵当権には、一つの借金を担保する普通の抵当権と、一定の範囲に属する不特定の債権を、極度額の限度で担保する根抵当権があります(民法398条の2第1項)。個人間の貸付では、貸付が1回限りなら普通抵当権、同じ相手に何度かに分けて貸す、あるいは貸したり返したりを繰り返す見込みなら、根抵当権が選択肢に入ります。
根抵当権が担保する債権の範囲は、債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるもの、その他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して定めなければなりません(民法398条の2第2項)。「一切の債権」とは書けないので、「令和○年○月○日付の継続的貸付契約に基づく貸付金返還債権」のように範囲を限定します。根抵当権者は、確定した元本および利息その他の定期金、損害賠償の全部について、極度額を限度として権利を行使できます(同法398条の3第1項)。普通抵当権の「最後の2年分」の制限(同法375条)は、根抵当権では極度額の限度に置き換わります。
普通抵当権と根抵当権の比べ方
| 普通抵当権 | 根抵当権 | |
|---|---|---|
| 担保する債権 | 特定の一つの債権 | 一定の範囲に属する不特定の債権(民法398条の2第1項・2項) |
| 限度 | 債権額+利息・遅延損害金(最後の2年分。民法375条) | 極度額の限度(民法398条の3第1項) |
| 返済すると | 債権が消えれば、抵当権も消える | 元本が確定するまでは、返済しても根抵当権は残り、新しい債権を担保できる |
| 登記事項 | 債権額、債務者、利息の定めなど(不動産登記法83条・88条1項) | 担保すべき債権の範囲、極度額、元本の確定期日など(同法88条2項) |
| 向く場面 | 貸付が1回で、返済計画が決まっている | 追加の貸付や、繰り返しの貸付の見込みがある |
個人間の貸付で根抵当権を使う場合は、根保証の極度額の規律(民法465条の2)と同様、設定者に限度額が見えるよう丁寧な説明が要る。
根抵当権には、元本が確定するという仕組みがあります。担保すべき元本は、確定すべき期日を定めることができ(民法398条の6第1項)、その期日は定めた日から5年以内でなければなりません(同条3項)。期日を定めないときは、設定者は設定から3年を経過すれば元本の確定を請求でき、請求から2週間で確定します(同法398条の19第1項)。根抵当権者は、いつでも確定を請求できます(同条2項)。競売手続の開始などがあると、元本は確定します(同法398条の20第1項)。確定後の根抵当権は、確定した元本とそれに伴う利息などを、極度額の範囲で担保する形で機能します。
条文例根抵当権の場合の第1条(担保する債権の範囲・極度額)
1設定者は、債務者が抵当権者に対して負担する、令和○年○月○日付継続的金銭貸付契約に基づく貸付金返還債権を担保するため、第2条記載の不動産に、極度額金○円の根抵当権を設定する。
2担保すべき元本の確定すべき期日は、令和○年○月○日とする。
個人間の貸付では、範囲を「一切の債権」とせず、特定の契約から生じる債権に限る書き方が分かりやすい。確定期日を決めるときは、5年以内の制限に注意する。
登記との分担:契約書が受け持つこと、登記が受け持つこと
抵当権の効力は、契約で生じます(民法176条)。ただ、第三者に対して主張するには登記が必要です(同法177条)。同じ不動産に複数の抵当権が付くときの順位は、登記の前後で決まります(同法373条)。つまり、貸主が自分の抵当権を確実にするには、契約書を交わしただけでは足りず、設定の登記を済ませなければなりません。
権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者と登記義務者が共同でしなければならない(不動産登記法60条)とされています。抵当権の設定では、貸主(抵当権者)が登記権利者、設定者が登記義務者です。共同で申請するとき、申請人は登記義務者の登記識別情報を提供する必要があります(同法22条)。そのため、契約書の段階で、設定者が登記に必要な書類(登記識別情報、印鑑証明書など)を、いつまでに、誰に渡すのか、費用は誰が負担するのかを決めておきます。
登記の申請手続の代理は、司法書士の業務として定められています(司法書士法3条1項1号)。契約書の作成とは別の手続です。契約書では、登記を誰が申請するのか(貸主が専門家に依頼するのか、双方が共同で行うのか)と、その費用を誰が負担するのかだけを書いておけば足ります。
条文例第4条(登記)
1設定者は、本契約の締結後遅滞なく、抵当権設定登記の申請に必要な書類(登記識別情報、印鑑証明書その他)を、抵当権者又は抵当権者の指定する者に提出する。
2登記に要する費用は、○○が負担する。
3設定者は、登記が完了するまで、本件不動産の売却、新たな担保の設定その他、本契約による抵当権の順位又は価値を損なう行為をしない。
登記の申請の方法そのものは書かない。誰が書類を出し、誰が費用を持ち、登記が済むまで何をしないか、までが契約書の守備範囲。
登記の条項の書き方
書類の提出
理由「協力する」だけでは、いつまでに何をするのかが決まらない。貸付の実行を、登記の書類の受取りと結びつけると、先にお金だけが出ていくことを防げる。
費用
理由費用の負担者が決まらないまま設定すると、登記の段階で止まる。設定者と借主が別人のときは、誰が払うかを必ず書く。
貸付の実行の時期と、登記の前後
お金を渡す日と、登記が完了する日の前後関係も、書面で決めておきたい点です。登記が済む前にお金を渡すと、その間に別の抵当権が先に登記され、順位が後ろになるおそれがあります(民法373条)。登記の申請を済ませてからお金を渡す、あるいは、登記の書類を預かってからお金を渡す、といった段取りを、貸付の契約書に書く方法があります。お金を渡した証拠の残し方はお金を貸した証拠の残し方で整理しています。
保証との組み合わせ、家族の不動産を担保にするとき
借主の親や配偶者、兄弟が、自分の不動産を借主のために担保に提供することがあります。この立場の人を、物上保証人と呼びます。物上保証人は、自分は借金をしておらず、担保にした不動産の範囲でだけ責任を負います。他人の債務を担保するために抵当権を設定した人は、その債務を弁済し、または抵当権の実行で所有権を失ったときは、保証債務の規定に従い、債務者に対して求償権を持ちます(民法372条・351条)。
保証人と物上保証人の違いを整理します。保証人は、保証契約を書面で結び(民法446条2項)、主たる債務者が払わないときに、自分の全財産で責任を負います。連帯保証人は催告の抗弁・検索の抗弁がありません(同法454条)。個人が、一定の範囲に属する不特定の債務を保証する根保証であれば、極度額を書面で定めなければ契約が効力を生じません(同法465条の2第2項・3項)。物上保証人は、担保にした不動産以外の財産では責任を負いません。
保証人と物上保証人の違い
| 保証人(連帯保証人) | 物上保証人 | |
|---|---|---|
| 責任の範囲 | 自分の全財産 | 担保にした不動産の範囲 |
| 契約の方式 | 書面(民法446条2項)。根保証は極度額が必要 | 抵当権設定契約。登記が対抗要件 |
| 弁済したとき | 主たる債務者に求償できる | 主たる債務者に求償できる(民法372条・351条) |
| 抗弁 | 連帯保証人は催告・検索の抗弁なし(民法454条) | 実行を受ける範囲に限る |
家族が設定者になるときは、契約書に加えて、次のことを書面で確認すると、後の食い違いを減らせます。①設定者が、借主の借金の額・利率・返済の方法を知っていること。②設定者が、借主が返さないとき、不動産が競売にかけられる可能性があることを理解していること。③設定者が、借主の借金の範囲を超えて責任を負わないこと(根抵当権のときは極度額)。④設定者が、自分の意思で署名していること。⑤設定者に、借主の返済状況を知らせる方法。
設定者への説明の問い
- 設定者は、貸付の額・利率・返済期限を、貸付契約書で確かめたか。何の借金を担保するのかを知らずに署名すると、後で「聞いていない」となる。
- 不動産が競売にかけられたとき、どうなるかを説明したか。住まいを担保にする場合は特に、実行の可能性を書面に残す。
- 設定者は、借主の返済状況を知りたいと思うか。どう知らせるか。定期的な報告か、請求があったときだけかを決めておく。
- 設定者が借主に求償できることを、借主は知っているか。設定者が弁済したあとの清算を、借主と設定者の間で決めておく。
返済が滞ったとき:期限の利益、実行の入口、特約の限界
抵当権を付けたからといって、返済が滞ったときに、貸主が自分で物件を取り上げることはできません。抵当権の実行には、裁判所の手続(担保不動産競売)が要ります。不動産担保権の実行は、担保権の登記がされた不動産についての実行の申立てなどがあったときに限り、開始します(民事執行法181条1項1号。そのほか同項2号の文書の提出でも開始されます)。このため、登記が済んでいることが、実行の入口になります。
返済が遅れたときに、残りの元本を一括で請求する条項(期限の利益の喪失)は、抵当権付きでも同じです。分割払いの遅れで一括請求できるのは、合意書の条項を根拠とします(民法136条1項。法律上の喪失事由は同法137条)。同条2号は、債務者が担保を滅失・損傷・減少させたときに期限の利益を主張できないとしています。抵当権付きの貸付では、目的の不動産の価値が下がる行為(取壊し、売却、他の担保の設定)も期限の利益の喪失事由として書いておくと、実質に合います。方式の比べ方は期限の利益喪失条項の7つの方式で整理しています。
条文例第5条(期限の利益の喪失)
1債務者が次の各号のいずれかに該当したときは、抵当権者の請求により、債務者は本件債務について期限の利益を失い、直ちに残額を支払う。(1) 債務者が返済を連続して2回怠り、抵当権者が10日以上の期間を定めて書面で催告したにもかかわらず、その期間内に支払わなかったとき。(2) 設定者が、本件不動産を売却、贈与、取壊し、又は他の担保に供したとき。(3) 本件不動産について、競売の申立てがあったとき。
2設定者は、前項第2号の行為をする場合には、事前に抵当権者の書面による承諾を得る。
「返せないなら物件をもらう」という特約を付けるとき
返済できないときは不動産の所有権を貸主に移す、という約束(代物弁済の予約など)を組み合わせたい、という場面もあります。このように、金銭債務を担保するために、不履行があるときに債権者に所有権などの移転をすることを目的とする契約で、仮登記ができるものは、「仮登記担保契約に関する法律」の対象です(同法1条)。この法律では、清算期間が経過した時の土地等の価額が債権の額を超えるときは、その超える額に相当する清算金を債務者に支払わなければなりません(同法3条1項)。つまり、「返せなければ物件は無条件で貸主のものになる」という書き方は、法律の上では、そのとおりには効きません。実行の方法は、抵当権の実行(競売)を原則として考え、取得の特約を入れる場合は、清算の仕組みまで書面に反映させる必要があります。
貸金業の登録との関係
金銭の貸付けで業として行うものは、貸金業にあたります(貸金業法2条1項)。貸金業を営もうとする者は、登録を受けなければなりません(同法3条1項)。個人間の貸付が、反復・継続して行われ、「業として」といえるかどうかは、貸付の回数や相手の範囲などで判断されます。この点は、条文の要件の紹介にとどめ、個別の判断はここでは行いません。担保を取る貸付でも、貸付の回数が増える場合は、この問題が生じえます。
完済のときの抹消:書類の返還と、協力の約束
借金を完済すれば、担保していた債権が消えるため、抵当権も消えます。ところが、登記の記載は自動では消えません。登記が残っていると、設定者が不動産を売ろうとするときや、新たに担保を付けようとするときに、障害になります。そのため、完済のときは、次の三つを整えます。
- 弁済の証拠:弁済をする者は、弁済と引換えに受取証書の交付を請求できます(民法486条1項)。債権に関する証書(借用書など)があるときは、全部の弁済をした者は、その証書の返還を請求できます(同法487条)。
- 抹消に必要な書類の交付:抹消登記も、原則として共同で申請します(不動産登記法60条)。貸主(登記義務者)は、登記識別情報(同法22条)などの書類を、設定者(登記権利者)に渡します。
- 完済の確認書:完済の日、残債務がないこと、抵当権を抹消することを、貸主と借主、設定者の連名で書面に残します。
条文例第6条(完済と抹消)
1債務者が本件債務の全額を支払ったときは、抵当権者は、直ちに受取証書を交付し、本契約に基づく抵当権の抹消登記に必要な書類を、設定者又は設定者の指定する者に交付する。
2抵当権者は、前項の書類の交付を拒み、又は遅延してはならない。抹消登記に要する費用は、設定者が負担する。
3抵当権者は、完済を確認した日に、本件債務が全て消滅したことを確認する書面に署名する。
抹消登記の申請の方法そのものは書かない。誰が何をいつまでに渡すかを決める。
貸主が亡くなったり、連絡が取れなくなったりすると、抹消の書類が出せなくなることがあります。完済の確認書には、貸主の連絡先の変更の届出義務を書いておき、貸主が死亡したときの承継人にも同じ義務が及ぶことを書いておくと、設定者が困りにくくなります。返済条件の変更や、完済の書面の作り方は返済猶予の変更合意書と完済確認書で整理しています。
起きがちなことと、最後に確かめること
完成前の最終確認
- 被担保債権の特定が、貸付契約書と一字違わず一致している
- 目的の不動産の表示が、登記事項証明書と一致している
- 普通抵当権か根抵当権か、選んだ理由が説明できる。根抵当権なら、極度額と範囲、確定期日を書いた
- 利息・遅延損害金の率が、利息制限法の上限の範囲に収まっている
- 設定者が借主以外なら、設定者への説明を書面に残した
- 登記の書類の提出時期、費用負担、登記が済むまでの禁止事項を書いた
- 期限の利益の喪失に、物件の価値を損なう行為を含めた
- 完済のときの受取証書、抹消の書類の交付、完済確認書の署名を書いた
税金に関する取扱いは、この契約書の項目としては扱いません。税務の取扱いは別途確認が必要です。
よくあるご質問
個人間の貸付に抵当権を付けるとき、契約書には何を書けばよいですか。
担保する債権(貸付契約の日付・元本・利息・遅延損害金)、目的の不動産(登記事項証明書どおりの表示)、担保の範囲(利息・遅延損害金について抵当権を行使できるのは、条文上、満期となった最後の2年分まで。民法375条)、登記の書類の提出と費用、期限の利益の喪失、完済時の抹消への協力を書きます。登記の申請の代理は司法書士の業務です(司法書士法3条1項1号)。
抵当権と根抵当権は何が違いますか。
抵当権は特定の一つの債権を担保します。根抵当権は、一定の範囲に属する不特定の債権を、極度額の限度で担保します(民法398条の2第1項)。担保する債権の範囲は、特定の継続的取引契約などに限定して定める必要があります(同条2項)。追加で貸す予定があるときは、根抵当権が選択肢になります。
家族の不動産を担保にすると、その家族は借金の保証人と同じ責任を負いますか。
同じではありません。担保にした不動産の範囲で責任を負う立場を物上保証人といい、保証人のように自分の全財産で責任を負うわけではありません。物上保証人が弁済したときは、債務者に求償できます(民法372条・351条)。保証人になるときは、書面での契約が要ります(民法446条2項)。
返済できなくなったら、貸主は物件を自分のものにできますか。
契約書に書いただけでは、そのようにはなりません。返済できないときに所有権を移す約束で、仮登記ができるものは、仮登記担保契約に関する法律の対象です。清算期間が経過した時の物件の価額が債権の額を超えるときは、その差額を清算金として債務者に支払う必要があります(同法3条1項)。抵当権の実行は、裁判所の手続(担保不動産競売)で行います(民事執行法181条)。
完済したのに、抵当権の登記が残っています。どうすればよいですか。
借金が消えても、登記は自動では消えません。抹消登記は、原則として貸主と設定者が共同で申請します(不動産登記法60条)。そのため、完済のときに、貸主が受取証書と抹消に必要な書類を渡すことを、契約書に書いておくのが実用的です(民法486条1項・487条も参照)。
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