このページの要点
- 既存の債務を消費貸借の目的とする合意をすれば、消費貸借が成立したものとみなされる(民法588条)。
- 発生原因は実態どおりに書き、総債務額・残高・支払済みの回数を計算で一致させる。
- 弁済計画は守れる内容にし、着金で履行、照会への回答、報告省略の撤回など、守られているかを確かめる仕組みを置く。
- 承認があれば時効は新たに進行を始める(民法152条1項)。時効の利益はあらかじめ放棄できない(同法146条)。
結論:債務承認書は「何が原因で、いくらの債務があり、今いくら残っているか」を認めさせ、弁済計画と一体で作る
すでに貸したお金、立て替えたお金、払ってもらえていない代金があり、それを分割で返してもらう約束をしたい。そうした場面で作るのが、債務承認書や債務弁済契約書です。債務承認とは、債務者が「自分にはこれだけの債務がある」と認めることで、それに続けて「こういう計画で返します」と約束するのが弁済計画です。名前は違っても、中身は「過去の債務の確定」と「将来の返済の約束」の二つでできています。
法律の面から見ると、債務承認には二つの働きがあります。一つは、既存の債務を消費貸借の目的とする合意をすれば、消費貸借が成立したものとみなされる、という準消費貸借の働きです(民法588条)。立替金や売買代金を「借りたお金」として返してもらう約束がこれに当たります。もう一つは、時効の働きです。権利の承認があったときは、時効はその時から新たに進行を始めます(民法152条1項)。返済が滞っている債権について、債務者に残高を認める書面に署名してもらうことは、時効の管理としても意味があります。
アトラス行政書士法人の書類には、個人間の複数回の貸付と物品の立替をまとめた債務弁済契約書、法人から個人への実行済みの貸付についての金銭消費貸借契約書兼債務承認書、立替金を債務として確認する公正証書の原案、の三つの型があります。このページでは、三つを比べながら、債務の確定と弁済計画の組み方を整理します。立替金の一覧表の作り方は交付の証拠と債務額の確定、返済の型は返済条件の設計で扱っています。
事務所の書類に見る三つの型
債務承認と弁済計画の三つの型
| 型 | 債務の確定のしかた | 弁済計画 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 債務弁済契約書(個人間・複数回の貸付と物品の立替) | 一定の期間に複数回実行された金銭の貸付と物品購入に基づく総債務額、締結時の未返済残高、支払済みの回数を条文で確認する。 | 月額+賞与月の加算、合計回数と最終期日を明記。休業日は直前の営業日。 | 着金で履行とする定義、返済報告の省略、届出義務、反社会的勢力の排除、秘密保持まで含む全13条。 |
| 金銭消費貸借契約書兼債務承認書(法人から個人・実行済み) | 第1条で、受け取り済みであること、返済義務を負っていること、受け取っていないと争わないことの3項を承認させる。 | 6回の分割を表で示し、端数を最終回に寄せる。休業日は翌営業日。 | 充当の順序、期限の利益喪失(請求喪失と当然喪失)、届出義務、繰上返済、権利の不放棄、回収費用、提出書類まで全15条。 |
| 債務承認弁済型の公正証書原案(立替金) | 一定の日までの立替の合計を、債務として確認し、返済条件を合意した、という構成にする。 | 毎月の最低額方式。 | 強制執行認諾文言を付ける前提。 |
どの型でも、債務の原因と金額を「認める」条と、「返し方」の条を分けて書いています。
三つ目の型は、同じ案件の「金銭消費貸借型」の原案と対にして作られました。立て替えてきたお金を、新しく貸したお金と見るのか(金銭消費貸借型)、すでにある債務を認めて返済条件を決めたと見るのか(債務承認弁済型)、という構成の違いです。どちらを選ぶ場合も、表題と趣旨の条だけでなく、本文の言葉(「貸付元本」なのか「承認した債務」なのか)を全体でそろえることが大切です。構成を選んだら、条文の中の言葉をすべてその構成に合わせて読み直します。公正証書の要件は公正証書にするときで扱います。
債務の原因と金額の書き方:実態とずれた言葉は争いの入口になる
債務承認で最も大切なのは、債務の発生原因を実態どおりに書くことです。事務所で扱った個人間の債務弁済契約書では、当初の案で発生原因を「複数回にわたり実行された金銭の貸付」とだけ書いていましたが、実際には物品の購入代金を立て替えた分も含まれていたため、改訂で「金銭並びに物品購入」と書き直しました。貸付と立替では、後で争われたときに証明すべき事実が違います。原因の一部が書かれていなければ、その部分について「承認していない」と言われる余地が残ります。
事務所の改訂例 債務弁済契約書の改訂
債務の発生原因
理由物品の立替が含まれている実態に合わせ、承認の対象から漏れる部分をなくします。
返済の開始月と加算月
理由弁済計画の数字が互いに合っていないと、どの数字が合意なのかで争いになります。
金額については、総債務額・締結時の残高・支払済みの回数の三つを並べ、計算が合っているかを確かめます。総債務額から残高を引いた額は支払済みの額になるはずで、「そのうち○回分は既に履行済み」と書くなら、その回数に毎回の返済額を掛けた額と一致しなければなりません。一致しないまま署名すると、承認したのはどちらの数字なのか、という新しい争いを自分で作ってしまいます。数字の照合のしかたは債務額の確定のページの表も参考にしてください。
実行済みの貸付の承認では、受け取りを裏付ける資料を事前に確かめます。法人から個人への貸付の作成前ヒヤリングシートでは、受領を裏付ける振込明細・受領書・通帳記録を「債務承認の裏づけ資料」と位置づけ、「借主は既に受領済みであり、返済義務を負っていることを承認する意思がある」ことをチェック欄で確認しました。承認する本人の意思を、書面を作る前の段階で確かめておくのは、承認書が「言われるままに署名させられた」と争われないための備えです。
条文例第1条(債務の承認及び借入の確認) 実行済みの貸付の承認
1乙は、本契約締結日現在、甲から金○円(以下「本件貸付金」という。)を金銭消費貸借契約に基づき既に借り受け、かつ、これを現実に受領済みであることを確認し、これを承認する。
2乙は、本件貸付金につき、甲に対して現に返済義務を負っていることを、何らの異議なく承認する。
3乙は、本件貸付金の交付が本契約締結前に既に完了していることを認め、金員の授受がないこと又は貸付が実行されていないことを理由として、本契約の効力その他甲の権利を争わない。
弁済計画の組み方:守れる計画にし、守られているかを確かめる仕組みを置く
債務承認に続く弁済計画は、借主が実際に守れる内容でなければ意味がありません。事務所の書類では、収入の波に合わせて賞与月に加算する型、少額を6回で返す型、最低額を毎月払う型を使い分けています。どの型でも、毎回の額と期日、合計回数、最終期日、振込先、振込手数料の負担、休業日の扱いを書き、表にできるものは表にしています。
計画が守られているかを確かめる仕組みも、弁済計画の一部です。個人間の債務弁済契約書では、毎月の返済について、期日までに指定口座に着金させれば履行したものとみなし、債権者は別途の返済報告(振込完了の通知など)を要しないことに同意する、としました。そのうえで、債権者が合理的な理由で照会したときは、債務者は照会の日から3営業日以内に振込明細の写しを示すこと、連続して2回以上の未履行や遅延が確認されたときは、債権者は返済報告の省略の合意を将来に向かって撤回できること、を定めています。借主を信頼して手間を省きつつ、信頼が崩れたら確認を求められるようにしておく書き方です。
弁済計画に書く項目
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 毎回の額 | 通常月は月額○円。加算月は月額に加えて○円。 |
| 期日 | 毎月○日まで。休業日に当たるときは直前の営業日(月をまたがない)。 |
| 回数と最終期日 | 合計○回。そのうち○回分は既に履行済み。最終返済期日は○年○月○日。 |
| 振込先と手数料 | 債権者の指定口座への振込。振込手数料は債務者の負担。 |
| 履行の時点 | 指定口座に着金した時点で履行。振込指示の送信時点では履行と認めない。 |
| 報告と照会 | 着金で足り報告不要。照会があれば3営業日以内に明細の写しを提示。2回以上の未履行で報告省略の合意を撤回できる。 |
繰上返済の扱い(割引・減免の有無、通知の期限)と、遅れたときの扱い(遅延損害金、期限の利益の喪失)も、弁済計画の条に続けて書きます。
弁済計画には、遅れたときの扱いも続けて書きます。同じ債務弁済契約書では、遅延損害金を年3パーセント(365日の日割、支払済みの日を含めた日数)とし、返済期日から1か月以上遅れた場合に、書面又はメッセージアプリなど記録が残る方法で通知し、その通知が届いた時点で期限の利益を失う、としました。債務者が正当な理由で遅れる場合に事情を説明でき、債権者は合理的な範囲で協議・配慮するが、それで履行義務が免除されるわけではない、という一文も入れています。期限の利益の喪失の方式は期限の利益の喪失で比べています。
承認書に添える書類と、付随する条項
債務承認書は、署名した本人が誰なのか、そしてその人の連絡先がどこなのかが確実でなければ、回収の場面で役に立ちません。法人から個人への貸付の契約書兼債務承認書では、「提出書類及び表明保証」の条を置き、借主が、発行後3か月以内の印鑑登録証明書、本人確認書類の写し、現住所を証する書類(住民票の写しなど)、勤務先に関する情報(名称・所在地・連絡先)を提出すること、そしてそれらの書類の記載と申告事項がいずれも真実かつ正確であることを表明し保証することを定めました。申告事項に重大な虚偽があれば当然に期限の利益を失う、という事由とも連動させています。個人間の債務弁済契約書では、当事者欄に氏名・住所に加えて生年月日と連絡先(電話番号・メールアドレス)を記載させ、各当事者が自分の記載事項が真実かつ正確であることを保証する、としました。
付随する条項として、反社会的勢力の排除や秘密保持、権利義務の譲渡の禁止を置く例もあります。債務弁済契約書には、反社会的勢力の排除と、契約の内容や締結の過程で知った相手方の非公開の情報についての秘密保持(終了後も一定期間存続)を置きました。個人間の貸付の契約書では、借主が貸主の書面による承諾なく契約上の地位や権利義務を第三者に譲渡し、承継させ、担保に供してはならない、と定めた例があります。
ただ、貸主の側の債権の譲渡を禁止しても、譲渡そのものが無効になるわけではない点には注意します。当事者が債権の譲渡を禁止し又は制限する意思表示をしても、債権の譲渡は効力を妨げられず(民法466条2項)、債務者は、その意思表示を知り又は重大な過失で知らなかった譲受人などに対して、履行を拒んだり、譲渡人への弁済をもって対抗したりできる(同条3項)、という仕組みになっています。借主の立場から「知らない相手に債権が渡るのは困る」という場合、譲渡制限の条を置く意味はありますが、それで譲渡を完全に止められるわけではありません。債権を譲り渡す側の契約については、債権譲渡・ファクタリングのページで扱います。
時効と承認:承認で時効は新たに進み、事前の放棄はできない
貸金などの債権は、債権者が権利を行使できることを知った時から5年間、又は権利を行使できる時から10年間行使しないと、時効によって消滅します(民法166条1項)。返済期日を過ぎて何年も経っている貸付では、時効の確認が欠かせません。事務所が貸金の返還を求める内容証明のために作ったヒヤリングシートでも、「一番古い貸付の返済期限から、何年ほど経っていますか」と聞き、消滅時効(原則5年)の確認のためと注記しています。
時効の管理に関わる条文
- 民法166条1項債権は、権利を行使できることを知った時から5年間、又は権利を行使できる時から10年間行使しないときは、時効によって消滅する。
- 民法152条1項時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める(時効の更新)。
- 民法150条催告があったときは、その時から6か月を経過するまでの間は、時効は完成しない(完成猶予)。猶予の間に再度催告しても、さらに猶予されるわけではない。
- 民法146条時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。
時効の確認は、承認書を作る前の聞き取りで行います。最後に返済があった日、最後に借主が債務を認める発言やメッセージをした日、返済期日、を時系列で並べると、どの時点から時効を数えるべきかが見えてきます。複数回に分けて貸した場合は、貸付ごとに返済期日が違うことがあるので、一番古い貸付から順に確かめます。
債務承認書に債務者が署名すれば、その時から時効は新たに進行を始めます。内容証明で支払を催告すれば、6か月間は時効が完成しませんが、その間に再び催告しても猶予は延びません(民法150条2項)。催告で時間を確保している間に、債務の承認を得るか、法的な手続をとるか、を決めることになります。なお、契約書や承諾書に「時効を援用しない」とあらかじめ書いても、時効の利益はあらかじめ放棄できないので(民法146条)、効力はありません。時効の管理は、承認の書面を得ることで行います。
契約の成立のしかたと、他の債権債務の清算
債務承認書や債務弁済契約書は、当事者が離れて暮らしていることも多く、どうやって署名を集めるかも問題になります。契約は、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成などの方式がなくても、申込みと承諾で成立します(民法522条)。事務所で扱った個人間の債務弁済契約書では、債務者が署名押印した書面を債権者に郵送し、債権者が受領後に署名押印して、その画像をメッセージアプリや電子メールで債務者に送るとともに、本契約の内容を承諾する旨を明示した時点で契約が成立する、という手順を条文にしていました。やり取りの画像とメッセージは双方が記録し、契約終了後も一定期間保管する義務も置いています。ただし、保証契約のように書面が効力の要件になっている契約(民法446条2項)は、この方法だけで済ませず、書面又は電磁的記録で確実に結びます。
同じ契約では、完全合意の条で「当事者は、本契約以外に、互いに対して一切の金銭債権・債務、請求権又は返還義務等が存在しないことを相互に確認し、将来これらの存在を主張しないことを合意する」と書いています。複数の貸付や立替をまとめる弁済契約では、まとめた債務のほかに未精算のものが残っていないかを確かめたうえで、この清算の確認を置くと、後から「あの分は別だ」と持ち出されることを防げます。逆に、まだ別に精算すべきものがあるなら、清算の範囲から明示して除外しておきます。
ご相談と回答 債務承認書の作成で聞かれたこと
すでに渡した少額の貸付について契約書を作ります。どの条項を入れればよいですか。
法人から個人への実行済みの少額の貸付では、作成前ヒヤリングシートで条項ごとに採否を選んでもらいました。期限の利益の喪失は「分割金を2回分以上怠ったとき」を推奨とし、届出義務とみなし到達、回収費用の負担、専属的合意管轄、充当の順序、繰上返済の扱い、一部返済で残債務を放棄したことにならない旨の確認、変更は書面合意による旨、分離可能性は、原則として採用を勧めています。公正証書は作らず、私署証書として作ることも、確認事項として示しました。
借主が承認書に署名してくれたら、それで回収は安心ですか。
承認書は、債務の存在と額を争われにくくし、時効を新たに進行させる大切な書面ですが、それだけで強制的に回収できるわけではありません。不払いに備えるなら、期限の利益の喪失の条や連絡先の届出の条を整え、必要に応じて公正証書にすることも検討します。
聞き取り票 債務承認書を作る前に
- 債務の発生原因は何か(貸付・立替・売買代金・報酬の未払など)。複数あるか。原因の一部が書かれていないと、その部分の承認がないと言われます。
- 総債務額、現在の残高、これまでの返済の回数と額は。資料で裏付けられるか。三つの数字が計算で合っているかを確かめます。
- 一番古い返済期日から何年経っているか。消滅時効(民法166条1項)の確認のためです。承認で時効は新たに進行を始めます。
- 借主が守れる毎月の額はいくらか。収入に波はあるか。守れない計画は、すぐに期限の利益の喪失の場面になります。
- ほかに未精算の貸し借りはないか。清算の確認を置くか、範囲から除外するかを決めます。
よくあるご質問
債務承認書と借用書は何が違いますか。
借用書はこれから貸す、又は今貸したお金の証書です。債務承認書は、すでにある債務(貸付・立替・代金など)を債務者が認める書面で、多くの場合、返済の計画と一緒に作ります。
立替金を「借りたお金」として承認してもらえますか。
できます。既存の債務を消費貸借の目的とする合意をすれば、消費貸借が成立したものとみなされます(民法588条)。立替の明細と合計を確認したうえで、承認と返済条件を書面にします。
債務を承認してもらうと、時効はどうなりますか。
権利の承認があったときは、時効はその時から新たに進行を始めます(民法152条1項)。返済が滞っている債権の時効を管理する方法としても、承認の書面は意味があります。
「時効を援用しない」と書いてもらえば安心ですか。
時効の利益はあらかじめ放棄できない(民法146条)ので、そう書いても効力はありません。時効の管理は、承認の書面を得る、催告をするなどの方法で行います。
離れて暮らす相手と、どうやって契約を結べばよいですか。
署名した書面を郵送でやり取りする、電子契約サービスを使う、などの方法があります。郵送と画像の送信を組み合わせる場合は、どの時点で成立するかを条文で決め、やり取りの記録を保存しておきます。
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