借主が亡くなったとき、貸したお金は誰にどう請求するか

借主が亡くなっても、貸したお金は消えません。ただし請求の相手は相続人に変わり、人数と相続分に応じて額も分かれます。

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相続人どうしで「長男がすべて払う」と決めても、貸主が承諾しなければ、他の相続人は当然には免れません。

このページの要点

  • 借金は相続人が承継し(民法896条)、相続分に応じて分かれる(同法899条・900条)。まず戸籍で相続人を確かめ、相続人ごとの額を計算する。
  • 相続人には3か月の検討期間があり、放棄をした人には請求できない(民法915条・939条)。請求書では、支払の方法を相続財産に限らない。
  • 内容証明は貸主本人の名前で、相続人ごとに1通ずつ。時効の完成猶予は相続人ごと、更新も承認した人との間だけに生じる(民法150条・153条)。
  • 個人の保証人がいて期限の利益を失ったときは、知った時から2か月以内に通知する(民法458条の3)。

結論:借金は相続人に分かれて引き継がれる。相続人を確かめ、相続人ごとに請求し、書面で確定させる

借主が亡くなっても、貸したお金の返還を求める権利は消えません。相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継し(民法896条)、借金もその対象だからです。ただし、返してもらう相手は「亡くなった借主」から「相続人」に変わります。相続人が複数いれば、請求の相手も複数になり、相手ごとに金額が違います。誰が相続人なのか、それぞれがいくら引き継いだのか、相続を放棄した人はいないのか。この三つが分からないうちは、請求書の宛先も金額も決められません。

このページでは、借主が亡くなった後に貸主が踏む手順を、順に整理します。まず相続人を確かめ、次に相続人の側に3か月の検討期間があることを踏まえて請求の時期を考え、相続人ごとの額を計算して相続人宛ての貸金返還請求書(内容証明)を出し、そのうえで、相続人と引き継いだ額を確認する債務承認書や、返し方の約束を結びます。書面は貸主ご本人の名前で出すのが基本で、書類の作成者が相続人との交渉を代わりに行うことはできません。このページは、紛争の見通しの判断にも立ち入りません。誰にいくら請求するか、相続人からの申出にどう応じるかを決めるのは、貸主ご本人です。

借主が亡くなった後の流れ

  1. 1 相続人を確かめる戸籍で、相続人の範囲と人数を確定する。
  2. 2 時期を考える相続人の3か月の検討期間と、時効の進み具合を見て、請求書を出す時期を選ぶ。
  3. 3 額を計算して請求する相続分ごとの額を出し、相続人ごとに内容証明で請求する。
  4. 4 書面で確定する債務承認書や弁済の約束で、引き継いだ額と返し方を決める。

貸した事実を示す資料(借用書、振込の記録、やり取りの記録)は、どの段階でも使います。最初に、手元にあるものを一通り集めておきます。

時効の確認も、早い段階でしておきます。貸金の返還請求権は、貸主が権利を行使できると知った時から5年、権利を行使できる時から10年のいずれか早いほうで時効にかかります(民法166条1項)。借主の死亡で時効が止まるわけではありません。最も古い返済期限から数年が経っているときは、相続人調査と並行して、早めに請求書を出すことを考えます。なお、請求書による催告で時効の完成が猶予されるのは6か月で、その間にされた再度の催告には猶予の効力がありません(同法150条)。請求書は、時効を新たに進め直す(更新する)書面ではありません。この点は、後で債務承認書を扱うところで触れます。

契約書や書面の、どこで借主の死亡と相続が問題になるか

金銭消費貸借契約書や内容証明は、借主が生きていることを前提に作られているのが普通です。借主が亡くなった場面を想定した条項は少なく、実際には、一般的な契約書の条項を、死亡と相続の場面に読み替えて使うことになります。次の表は、一般的な書面のどの条項が、借主の死亡のときに手がかりになるかを整理したものです。相続の規定の説明は、民法の条文にもとづく整理です。

書面の条項と、借主の死亡のときの使い道(一般的な整理)

書面条項内容借主の死亡のときの使い道
連帯保証人承諾書保証が相続人に承継される旨の条保証が、保証人の相続人その他の包括承継人に承継されることを確認する。これは保証人が亡くなった場合の条です。借主の死亡と混同しないこと。保証人の死亡は連帯保証で扱っています。
金銭消費貸借契約書期限の利益の喪失の条借主の死亡や後見開始などの審判を、通知や催告なしに期限の利益を失う事由に並べることがある。借主が亡くなると、分割払いの残りを一括で請求できる根拠になる。保証人への通知が要る(後述)。
債務承認書債務の承認の条お金を受け取ったこと、返済義務があること、受け取っていないと争わないことを、債務者が承認する。相続人と結ぶ債務承認書の骨格として、置き換えて使える。
貸金返還請求の内容証明差出人と時効の確認内容証明は貸主本人の名前で出す。最も古い返済期限から何年たつかを確かめる。相続人宛ての請求でも、差出人と時効の確認は同じ。
貸金返還請求の内容証明請求の内容遅延損害金を請求するか、支払期限を書面の到達後何日にするか、配達証明を付けるか。相続人ごとの請求書で、期限の置き方と配達証明の付け方の土台になる。

法定利率は、民法404条で3年ごとに見直されます。遅延損害金を法定利率で請求するときは、請求する時点の利率を確かめます。

借金は誰がいくら引き継ぐのか:相続分に応じて分かれる

相続人になるのは、まず配偶者です。配偶者は常に相続人になります(民法890条)。それと並んで、子が相続人になり(同法887条1項)、子が借主より先に亡くなっているときは、その子(孫)が代わって相続人になります(同条2項)。子がいなければ直系尊属(父母など)、直系尊属もいなければ兄弟姉妹の順に相続人になります(同法889条1項)。借主と一緒に暮らしていたかどうか、現在の配偶者との間の子かどうかにかかわらず、戸籍で借主の子と記載されている人は子として相続人になります。

相続人が数人いるときは、相続財産はその共有になり(民法898条1項)、各共同相続人は、相続分に応じて被相続人の権利義務を承継します(同法899条)。相続分は、同順位の相続人の組合せごとに、民法900条が定めています。お金を返す債務のように分けられる性質のものは、実務では、相続の開始と同時に、相続分の割合で各相続人に分かれて帰属すると考えるのが一般的です。貸主から見ると、残っている貸金を相続人の人数と相続分で割った額を、それぞれの相続人に請求することになります。

相続人の組合せと、残額が分かれる割合(民法900条)

相続人の組合せそれぞれの相続分残額を分けるときの考え方
配偶者と子(2人)配偶者が2分の1。子は2人で残りの2分の1を等しく分け、各4分の1。残額の2分の1、4分の1、4分の1に分けて、それぞれに請求する。
子だけ(3人)各3分の1。残額を3等分する。
配偶者と直系尊属(父母)配偶者が3分の2、直系尊属は合わせて3分の1(父母がともにいれば各6分の1)。子がいないときの組合せ。残額の3分の2と、3分の1を父母で等分した額になる。
配偶者と兄弟姉妹(2人)配偶者が4分の3、兄弟姉妹は合わせて4分の1(2人なら各8分の1)。父母の一方だけを同じくする兄弟姉妹の相続分は、双方を同じくする兄弟姉妹の2分の1になる(900条4号ただし書)。

子が先に亡くなっていて孫が代わって相続人になるとき(代襲相続)は、孫の相続分は、亡くなった子が受けるはずだったものと同じです(民法901条1項)。孫が複数なら、その部分を孫の間で分けます。

ここで、貸主がよく受ける質問に触れておきます。相続人どうしの話し合い(遺産分割協議)で「借金はすべて長男が引き継ぐ」と決めたとき、貸主は他の相続人に請求できなくなるのか、という点です。結論から言えば、原則として、相続人どうしの取決めだけで貸主との関係が変わるとは考えられていません。近い規定として、民法902条の2は、被相続人の債務の債権者は、相続分の指定がされた場合でも、各共同相続人に対し、法定の相続分に応じて権利を行使できると定めています(債権者が、指定された相続分に応じた承継を承認したときは別です)。また、債務者が代わる免責的債務引受は、債権者と引受人の契約か、債権者の承諾があって成立します(同法472条2項・3項)。相続人どうしで誰が払うかを決めていても、貸主が承諾しない限り、他の相続人は当然には免れません。

だからこそ、協議の結果を貸主に伝えてくる相続人が出てきたときは、承諾するかどうかを貸主ご本人が決めることになります。承諾すれば、実質的には一人に請求することになり、その人が払えなくなったときのリスクは貸主が負います。承諾するなら、どう引き受けてもらうのかを書面に残します。この点は、債務承認書を扱う節で整理します。

相続人を確かめる:戸籍から相続関係を組み立てる

請求の第一歩は、相続人の確定です。一般的な手順は、次のとおりです。まず、借主の死亡の記載のある戸籍を取り、そこから出生まで連続してさかのぼって、戸籍(除籍や改製原戸籍を含みます)を集めます。次に、そこに記載された配偶者・子などの現在の戸籍を取り、存命か、先に亡くなった子がいないかを確かめます。最後に、確かめた結果を、相続人の一覧と続柄の図にまとめます。この一覧が、請求書の宛先と、前の節の割合計算のもとになります。

戸籍の請求には決まりがあります。戸籍に記載されている人本人や、その配偶者、直系尊属・直系卑属は、戸籍謄本等の交付を請求できます(戸籍法10条1項)。それ以外の人は、同法10条の2第1項の各号に当たる場合に限って請求でき、貸主が請求するときは、第1号の「自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために戸籍の記載事項を確認する必要がある場合」にあたるかどうかが問われます。この場合、権利の発生原因と内容、そして確認が必要な理由を明らかにして請求します。貸主なら、借用書や振込の記録など、貸付の事実を示す資料を添えて理由を説明する形になります。同条3項は、行政書士などが、受任している事件又は事務に関する業務を遂行するために必要がある場合の請求についても定めています。この場合は、資格、業務の種類、依頼者の氏名と請求の理由などを明らかにします。どの事務について、どこまで請求できるかは、事務の内容と窓口の判断によるので、ここで一律には言えません。窓口で求められる資料は市区町村で違うことがあるため、請求の前に確認します。

聞き取り票 相続人を確かめる前に、貸主から聞いておくこと

  1. 借主が亡くなった日と、亡くなったことを知った経緯。相続人の3か月の期間は、相続人が相続の開始を知った時から数えます。請求書を出す時期を考える材料になります。
  2. 借主の最後の住所と本籍地。戸籍の請求先を決めるためです。分からなければ、借用書や住民票の記載が手がかりになります。
  3. 借用書、振込の記録、メッセージのやり取りなど、貸付を示す資料。戸籍を請求するときの理由の説明にも、請求書で貸付の事実を示すときにも使います。
  4. 借主の家族について知っていること(配偶者、子、父母、兄弟姉妹)。相続人の見当をつけ、戸籍の読み落としがないかを確かめる手がかりになります。
  5. 貸付のあと、借主からあった返済と、最後の連絡。死亡時点の残額を計算し、最後の承認や返済の時期から、時効の進み具合を見るためです。
  6. 最も古い返済期限から何年たっているか。消滅時効(原則5年)の確認のためです。

戸籍で分かるのは、相続人の範囲と続柄までです。相続人の現在の住所や、相続を放棄したかどうかは、戸籍だけでは分かりません。住所の確かめ方は、請求の根拠となる手続によって異なるので、窓口の案内に従います。放棄をしたかどうかは、相続人本人の回答や、後で見る受理証明書などで確かめることになります。

3か月の期間と、相続放棄・限定承認:請求する時期の考え方

相続人には、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純承認、限定承認、放棄のいずれかをする期間があります(民法915条1項)。この期間は、利害関係人などの請求で、家庭裁判所が伸ばすことができます(同項ただし書)。相続人が未成年者や成年被後見人のときは、法定代理人が相続の開始を知った時から数えます(同法917条)。3か月のうちに何もしなければ、単純承認をしたものとみなされます(同法921条2号)。単純承認をした相続人は、被相続人の借金を、特に限定なく引き継ぎます。

相続人の3つの選択と、貸主の請求への影響

選択手続貸主の請求への影響
単純承認特別な手続はない。期間内に何もしないか、相続財産を処分したときなどは、承認したものとみなされる(921条1号・2号)。相続分の割合で請求できる。
限定承認共同相続人の全員が共同して、期間内に財産目録を家庭裁判所に提出して申述する(923条・924条)。相続で得た財産の限度でのみ、債務を弁済する(922条)。限定承認の後は、知れている債権者には個別に申出の催告が届く(927条)。
相続放棄期間内に家庭裁判所に申述する(938条)。放棄した人は、初めから相続人にならなかったものとみなされ(939条)、その人には請求できない。

放棄が出てくると、請求の組み立てが変わります。放棄した人の分は、残りの同順位の相続人の相続分に反映されます。同順位の相続人が全員放棄すれば、次の順位の人(子が全員放棄すれば直系尊属、というように)が相続人になります。貸主としては、放棄の連絡を受けたら、その事実を裏付ける裁判所の書面(受理証明書など)を示してもらい、戸籍の整理をやり直して、新しく相続人になった人を確かめます。相続人が全員放棄するなどして引き継ぐ人がいないときは、家庭裁判所が相続財産の清算人を選任する仕組みがあり(同法952条1項)、債権者は利害関係人として選任を請求できる場合があります。請求できるかどうかは個別の事情によるので、手続の窓口で確かめます。

限定承認があったときは、貸主のところに、一定期間内に請求の申出をするよう求める通知(個別の催告)が届くことがあります(民法927条1項・3項)。申出の期間は2か月を下回ることができません。知れている債権者は除斥されない扱い(同条2項ただし書)ですが、通知が届いたら、期間内に貸付の資料を添えて申し出ておきます。

請求の時期は、貸主が決めます。ただ、相続人が3か月の検討期間の途中にいることは、念頭に置いておきます。請求書を出すこと自体は、期間中でも妨げられません。しかし、相続人が請求書を受け取ったことで初めて借金の存在を知り、放棄や限定承認を検討する、という流れは十分にあり得ます。そのため、請求書では、相続人の検討を妨げるような書き方を避けます。たとえば、「亡くなった借主の預金から払ってほしい」と、支払の方法を相続財産に限って指定する書き方です。相続人が相続財産を処分すると、単純承認をしたものとみなされることがあり(同法921条1号)、相続人の選べる手続に影響が出るからです。支払の方法は、振込先の口座を示すにとどめ、どの財産から払うかは相続人に委ねます。

3か月が過ぎていても、相続人が借金の存在を知らなかった事情があるときなど、扱いが争われることがあります。貸主は、相続人がいつ借金の存在を知ったのかを確かめ、その経過を書面に残しておくと、後の話し合いがしやすくなります。

相続人宛ての貸金返還請求書(内容証明)の組み立て

貸金の返還を求める内容証明は、貸主ご本人の名前で出すのが基本です。書類の作成を専門職に頼む場合も、作成者は権利義務に関する書類を作成するにとどまり、相手との交渉を本人に代わって行うことはできません。相手から連絡があれば、本人が対応します。行政書士の業務は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成することです(行政書士法1条の3第1項)。相続人宛ての請求書でも、この役割分担は同じです。

宛先は、相続人ごとに1通ずつにします。借主が会社か代表者個人かが分からないときに2通に分ける考え方(内容証明で支払を求める)と同じく、相続の場面では、相続人の数だけ別々に出すほうが整理しやすいからです。請求額が人によって違い、書面の到達した日も人によって違い、放棄した人とそうでない人を区別する必要があるためです。氏名と住所は、戸籍などで確認した表記に合わせます。本文は、貸金の返還請求の一般的な流れ(経緯、請求の根拠、請求額と振込先、期限、期限後の対応)に、相続の関係を加えた構成にします。

条文例相続人宛ての貸金返還請求書の本文(構成の例)

1通知人は、○○(以下「亡○○」といいます。)に対し、令和○年○月○日、金○円を、返済期限を令和○年○月○日と定めて貸し付け、振込により交付しました。

2亡○○は令和○年○月○日に死亡し、貴殿は、亡○○の○○(続柄)として、その相続人です。亡○○の通知人に対する債務は、相続分に応じて相続人に承継されています。

3死亡の時点で、上記貸付金の残額は金○円でした。貴殿の相続分は○分の○ですので、貴殿が承継した債務は、金○円(残額×相続分)及びこれに対する令和○年○月○日から支払済みまでの遅延損害金です。

4つきましては、本書面到達の日の翌日から起算して○日以内に、上記金員を、下記口座にお振込みください。

5貴殿が相続の放棄その他の手続をとられた場合は、その旨と、それを示す書面の写しをお知らせください。

6なお、貸付の事実を示す借用書及び振込明細の写しを同封します。

一般的な構成の例です。支払の方法を相続財産に限らないこと(振込先の口座を示すだけにすること)、放棄や限定承認の連絡の窓口を書くことがポイントです。請求額の計算式は、本文に書いておきます。

相続人ごとの請求額を示す表(本文に添える表の例)

相続人続柄相続分承継した元本遅延損害金の起算日
○○配偶者2分の1死亡時の残額×2分の1=○円返済期限の翌日
○○子4分の1死亡時の残額×4分の1=○円返済期限の翌日
○○子4分の1死亡時の残額×4分の1=○円返済期限の翌日

割り算で1円未満の端数が出るときの扱い(最後の人にまとめる、切り捨てるなど)も、あらかじめ決めて本文に書いておきます。

支払期限は、書面の到達後7日から14日程度を置くのが一般的です。借主の死亡後は、相続人が調査や検討に使う日数も見込んで、この範囲の中で置きます。返済の時期を定めていない貸付であれば、貸主は相当の期間を定めて返還の催告をします(民法591条1項)。請求書の期限は、この相当の期間にあたります。遅延損害金は、約定の利率がなければ法定利率による請求になります(同法419条1項)。死亡の前から返済期限が過ぎていたのであれば、期限の翌日から計算します。期限の定めのない貸付なら、履行の請求を受けた時から遅滞になります(同法412条3項)。

時効の面では、請求書は催告にあたり、6か月の完成猶予を生みます(民法150条1項)。そして、この効力が及ぶのは、完成猶予の事由が生じた当事者とその承継人の間だけです(同法153条2項)。相続人が複数いれば、一人への請求書は、他の相続人の分の時効を止めません。時効が迫っているときは、相続人ごとの請求書を、できるだけ同じ時期に出します。

請求書を受け取った相続人が、分割にしてほしい、減額してほしいと申し出ることもあります。応じるかどうか、どの条件にするかは、貸主ご本人が決めることです。決まった内容を書面にまとめる方法は、次の節で見ます。回収の見込みや、相続財産からの回収の方針は、ここでは扱いません。

聞き取り票 貸金返還請求のヒヤリングに、相続の場面で加える問い

  1. 相続人のうち、住所が分かる人、連絡を取ったことがある人はいるか。相続人ごとの請求書の宛先を決め、連絡の経過を書面に反映させるためです。
  2. 借主が亡くなった後、相続人から何か連絡があったか。相続人が借金の存在を知った時期や、放棄などの意向の手がかりになります。
  3. 請求する範囲は、元本だけか、利息・遅延損害金を含めるか。請求書の内容を決める基本の問いです。相続人の人数が多いほど、計算の手間が変わります。
  4. 相続人から分割や減額の申出があったとき、応じる余地はあるか。応じる余地は貸主が判断します。決まった内容を書面にします。

相続人と結ぶ債務承認書・弁済の約束:引き継いだ額の確認と時効の更新

請求書で相続人から連絡があり、金額に争いがなければ、引き継いだ額を書面で確定させます。確定させる書面は、一般的な債務承認書の骨格を、相続の場面に置き換えて作れます。債務承認書は、借主が貸付金を受け取っていることを確認し、返済義務を負っていることを承認し、金員の授受がないことを理由に争わない、と書くのが典型です。相続人の書面では、この三つに、「亡くなった借主の債務を、相続人として、相続分の割合で承継したこと」を加えます。

条文例相続人が結ぶ債務承認書の第1条(置き換えの例)

1乙は、○○(以下「亡○○」という。)が、令和○年○月○日、甲から金○円を借り受け、これを受領していたことを確認する。

2乙は、亡○○の相続人として、亡○○の甲に対する前項の債務のうち、乙の相続分(○分の○)に相当する金○円を承継したことを承認し、甲に対し、これを返済する義務を負っていることを、何らの異議なく承認する。

3乙は、金員の授受がないこと、又は債務を承継していないことを理由として、本契約の効力その他甲の権利を争わない。

一般的な債務承認書の第1条(受領の確認、返済義務の承認、授受がないとして争わない)を、相続の場面に置き換えた構成例です。返済の表、期限の利益の喪失、届出の条などは、通常の債務承認書と同じ並びで続けます。

この書面は、相続人ごとに別々に結ぶほうが扱いやすくなります。一つの書面に連名で並べると、一人が署名しない、あるいは途中で放棄が分かったときに、全体を作り直す必要が出てくるからです。額が違う相続人どうしでは、条文も別に置いたほうが読み違いがありません。署名のときには、印鑑登録証明書、本人確認書類の写し、現住所を示す書類を提出してもらいます。相続人であることを確かめるため、相続関係を示す戸籍の写しも併せて確認します。未成年の相続人がいるときは、法定代理人が手続に関わります。

債務承認書には、時効の面での意味もあります。債務者が権利を承認すれば、時効は、その時から新たに進行を始めます(民法152条1項)。ただし、この更新の効力が及ぶのは、更新の事由が生じた当事者とその承継人の間だけです(同法153条3項)。相続人の一人が承認しても、他の相続人の時効は更新されません。相続人ごとに書面を結ぶ意味は、ここにもあります。反対に、時効の完成前に「時効が完成しても援用しない」と約束させる条項を書いても、効力は認められません。時効の利益は、あらかじめ放棄できないからです(同法146条)。時効の援用を封じる文言は、同じ理由で、書いても期待どおりには働かないものです。

相続人が、遺産分割の話し合いで負担する人を決めた、と伝えてきたときの対応は、貸主の選択になります。三つの方向があります。

協議の結果を受けたときの、貸主の選び方

選び方内容貸主にとっての意味
承諾せず、法定の相続分で請求を続ける相続人間の取決めは貸主には及ばないので、各相続人に、相続分の割合で請求を続ける(902条の2)。相続人ごとの債務承認書は、そのまま使える。相続人どうしの清算は、相続人の間で行ってもらう。
免責的債務引受を承諾する一人が債務を引き受け、他の相続人は債務を免れる。債権者の承諾が要る(472条3項)。請求の相手は一人になる。引き受けた人が払えなくなったときの危険は、貸主が負う。
併存的債務引受にする引き受けた人が、他の相続人と連帯して債務を負う(470条1項)。請求できる人が減らない。引き受けた人への請求と、他の相続人への請求を併せて残せる。

どれを選ぶかは貸主ご本人の判断です。選んだ内容は、債務承認書の中か、別の合意書に、引受けの種類を明記して書きます。

弁済の約束は、承認書の中に返済の表を置く形が基本です。分割にするのであれば、毎回の額、端数の寄せ先、休業日の扱い、着金をもって履行とする定義などを、返済条件と分割で払う約束のとおりに置き、遅れたときの扱いは期限の利益の喪失で整理した方式から選びます。債務承認書全般の作り方は債務承認・弁済計画、完済のときの書面は返済猶予・変更・完済確認に整理しています。

保証人がいるとき、借主が二人以上のとき、契約書に残す条項:起きがちなこと

借主に連帯保証人が付いているときは、借主が亡くなっても、保証人への請求は続けられます。保証人は、主たる債務者が履行しないときに履行の責任を負う立場で(民法446条1項)、借主の債務は相続人に承継されて続いているからです。ただし、借主の死亡を期限の利益の喪失事由にしていた場合には、手続上の注意があります。主たる債務者が期限の利益を失ったとき、債権者は、個人の保証人に対して、それを知った時から2か月以内に通知しなければならず、通知をしなかったときは、期限の利益の喪失から通知までに生じた遅延損害金について、保証人に請求できません(同法458条の3第1項・2項)。保証人が法人の場合は、この規定は適用されません(同条3項)。個人の保証人がいる貸付で、借主が亡くなったと分かったら、相続人への請求と並行して、保証人への通知も考えます。

継続的な取引の債務を保証してもらう個人根保証では、主たる債務者が死亡したときに、主たる債務の元本が確定します(民法465条の4第1項3号)。確定した後に生じた債務は、保証の対象になりません。根保証と極度額の考え方は、連帯保証で扱っています。

借主が二人以上いて、連帯して借りているとき(連帯債務)は、債権者は、そのうちの一人に、あるいは同時に、順次に全員に、全部又は一部の履行を請求できます(民法436条)。借主の一人が亡くなっても、生きている連帯債務者への請求は妨げられません。亡くなった連帯債務者の負担が、相続人にどのように分かれて承継されるかは、連帯債務の規定と相続の規定の組合せになり、個別の事情で整理が変わるため、このページでは取り上げません。

これから貸す人は、借主が亡くなったときのことを、契約書に書いておくことができます。ただし、書いておけば相続人にも当然に義務が生じる、という種類の条項と、確認や通知の手がかりにとどまる条項があります。区別して置きます。

借主の死亡に備える条項の置き方

条項書き方(要旨)働き注意
承継の確認借主の債務は、借主の相続人に承継される。民法896条の当然の結果を、当事者が確認しておく。承継の割合を変える条項ではない。相続分に応じて分かれるという原則は変わらない。
死亡の事実の通知借主が死亡したときは、借主の家族等が遅滞なく貸主に通知する。死亡を知るのが遅れることを防ぐ。相続人は契約の当事者ではないので、義務を負わせる形にはできない。連絡先を借主が家族に伝える手がかりになる。
期限の利益の喪失事由借主が死亡したときは、通知や催告なしに期限の利益を失う。残りの分割金を、一括で請求できる根拠になる。個人の保証人がいれば、2か月以内の通知が必要(458条の3)。期限の利益の喪失の方式と合わせて決める。

借主が亡くなったと分かったときの確認リスト

  • 貸付の事実を示す資料(借用書、振込の記録、やり取りの記録)を集めたか。
  • 最も古い返済期限から何年たつか。時効が近いときは、請求書を出す時期を早めたか。
  • 戸籍をたどって、相続人の範囲と続柄の一覧を作ったか。
  • 相続人ごとに、相続分の割合と、承継した額を計算したか。
  • 請求書で、支払の方法を相続財産に限っていないか。相続人の検討期間を妨げる書き方になっていないか。
  • 個人の連帯保証人がいるなら、期限の利益の喪失を知った時から2か月以内に通知したか。
  • 相続人から申出があったとき、応じるかどうかを貸主ご本人が決める段取りになっているか。

よくあるご質問

借主が亡くなったら、貸したお金は誰に請求しますか。

借主の相続人に請求します。借金は相続人に承継されます(民法896条)。相続人が複数なら、相続分の割合で分かれて各相続人に帰属すると考えるのが一般的なので、まず戸籍で相続人を確かめ、相続人ごとに額を計算します。借主に個人の連帯保証人がいれば、保証人への請求も妨げられません。

相続人が複数いるとき、一人に全額を請求できますか。

原則として、相続分に応じた額を各相続人に請求します。相続人どうしの話し合いで一人が全部払うと決めても、貸主が承諾しない限り、他の相続人が当然には免れるわけではありません(民法902条の2、472条)。一人に全額を請求したいときは、その人に債務を引き受けてもらう合意を書面にします。

相続人が相続放棄をしたら、請求はどうなりますか。

放棄をした人は、初めから相続人にならなかったものとみなされるので(民法939条)、その人には請求できません。同順位の他の相続人の相続分が増え、同順位の全員が放棄すれば次の順位の人が相続人になります。放棄の連絡があったら、裁判所の書面の写しなどで事実を確かめ、相続人の整理をやり直します。

借主の相続人が誰か分かりません。貸主が戸籍を取れますか。

貸主は、自己の権利を行使するために戸籍の記載事項を確認する必要がある場合として、権利の発生原因と内容、確認が必要な理由を明らかにして請求できます(戸籍法10条の2第1項1号)。借用書や振込の記録などで貸付の事実を示します。窓口で求められる資料は市区町村で違うことがあるので、請求の前に確認します。

相続人と債務承認書を結ぶ意味は何ですか。

引き継いだ額を相続人本人に確認してもらい、争いを減らせます。また、債務の承認は時効を新たに進行させます(民法152条1項)。ただし、その効力は承認した人との間だけに生じ、他の相続人には及びません(同法153条3項)。そのため、相続人ごとに別の書面を結ぶほうが確実です。

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本ページは一般的な情報提供です。個別の契約への当てはめは、当事者の関係や取引の実態によって結論が変わることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた金銭消費貸借契約書、金銭受領確認書、連帯保証人承諾書、金銭消費貸借契約変更合意書、返済完了確認書、債務弁済契約書、債務承認書、公正証書の原案と手数料の試算書、内容証明郵便の文案とヒヤリングシート、示談書・合意書の支払条項、債権譲渡(ファクタリング)契約書、資金投資契約書などを、個別の依頼者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月21日)。参考: e-Gov法令検索

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