このページの要点
- 滞納額は月ごとの内訳つきの別表で確認する。確認は債務の承認にあたり、時効が新たに進み始める(民法152条1項)。
- 当月分の家賃は通常どおり払い、分割金は別に払う。入金の充て方は合意で決める(民法490条)。
- 分割金の遅れによる残額の一括請求(期限の利益の喪失)と、賃貸借の解除(民法541条)は別の問題。
- 公正証書で強制執行できるのは金銭の支払だけ(民事執行法22条5号)。敷金は貸主が滞納に充てられるが、借主からは請求できない(民法622条の2第2項)。
結論:滞納額の確定・当月分の払い方・遅れたときの扱い・保証人の同意を、一つの合意書にまとめる
家賃が払われないまま数か月が過ぎ、貸主(大家や管理会社)と借主が「残りは分けて払う」ことで話がまとまったとき、口頭やメッセージのやり取りだけで済ませると、後で三つの食い違いが生まれます。いくら滞納していたのか。毎月の家賃と分割金をどう払うのか。分割金が遅れたら、残りの一括請求や賃貸借の解除はどうなるのか。この三点を書面で確定させるのが、家賃滞納の分割払いの合意書です。
このページは、民法などの条文にもとづく一般的な情報の整理です。特定の賃貸借や特定の借主への当てはめではなく、実際の取引では契約書の文言、物件の種類(住居か事業用か)、当事者の関係によって結論が変わることがあります。分割払いの一般的な決め方は分割払いの合意書・返済条件の決め方、遅れたときの一括請求は期限の利益喪失条項で扱っています。ここでは、賃貸借に特有の論点、つまり毎月新しい家賃が発生し続けること、分割金の不払いと賃貸借の解除は別の問題であること、連帯保証人がすでにいること、退去のときに敷金の精算があることに絞ります。
結論を先に並べます。
- 滞納額は月ごとの内訳で確定し、貸主・借主の双方が確認する。確認は債務の承認にあたり、時効が新たに進み始める(民法152条1項)。
- 家賃は毎月払い続け、分割金は上乗せして払う。当月分が止まると、合意をした意味がなくなる。入金がどちらに充てられるかも決めておく(民法490条)。
- 分割金が遅れたときの「残額の一括請求」と、賃貸借の「解除」は別の効果。合意書に前者を書いても、後者が自動で決まるわけではない。
- 連帯保証人には、分割の内容を示して同意の署名をもらう。保証の範囲(極度額)も確認する(民法465条の2)。
- 明渡しの約束を組み合わせても、公正証書で強制執行できるのは金銭の支払だけ。明渡しの強制執行には別の債務名義が要る(民事執行法22条5号・168条)。
- 退去のときの精算(敷金の充当)は、先に書いておく。賃貸人は敷金を滞納に充てられるが、借主から充当を求めることはできない(民法622条の2第2項)。
合意書を作る前に手元に置くもの
- 賃貸借契約書(賃料、支払日、振込先、更新・解除の条項、保証人の欄)
- 月ごとの請求と入金の記録(通帳の写し、請求書の控え、管理会社の入金台帳)
- 連帯保証人の署名のある書面(極度額の定めがあるかどうか)
- 敷金・保証金の預り額と、賃貸借契約書に書かれた精算の定め
- 貸主の本人確認と、管理会社が合意する権限をもつことの確認(委任の範囲)
滞納額の確定:月ごとの内訳を、双方で確認する
分割の合意で最初に決めるのは、「いくら残っているか」です。滞納が数か月に及ぶと、請求書の金額、貸主の記録、借主の記憶が一致しないことが珍しくありません。一部を払った月、日割りになった月、共益費や駐車場代など賃料以外の項目、更新料や遅延損害金が混じっていると、合計だけを書いた合意書では、後から「その合計の中身は何か」で揉めます。そのため、合意書の別表に、月ごとの内訳を載せます。
滞納額の確認表(別表)の様子
| 対象月 | 請求額 | 入金額 | 未払額 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| ○年○月分 | 賃料+共益費 | 一部入金 | 残額 | 入金日と名義を記録 |
| ○年○月分 | 賃料+共益費 | なし | 全額 | — |
| ○年○月分 | 賃料+共益費 | なし | 全額 | — |
| 合計 | 滞納額の合計 | 合意書本文の金額と一致させる |
金額は実際の数字を入れる。賃料と、賃料以外の項目(共益費、駐車場代など)は列を分けると、後の充当の説明がしやすい。
賃料の支払時期は、契約で別の定めがなければ、建物と宅地については毎月末です(民法614条)。契約書に「前月末までに翌月分を払う」と書かれていることも多いので、月ごとの「支払期日」は賃貸借契約書で確かめて表に載せます。支払期日が分かると、遅れた日数や、時効の起算(権利を行使できる時から。民法166条1項2号)の整理にも使えます。債権は、権利を行使できると知った時から5年、行使できる時から10年で時効により消滅します(同項1号・2号)。賃料の滞納でも同じです。
次に、確認の効果を書きます。借主が滞納額を認めて署名すれば、権利の承認があったことになり、時効はその時から新たに進行を始めます(民法152条1項)。貸主にとっては、分割払いの途中で時効が近づく心配が薄れます。借主にとっては、認めたのは「別表の金額の範囲」だけで、表に載っていない請求は認めていない、と線を引けます。合意書には、確認した金額が別表のとおりであることと、別表に載っていない項目はこの合意の対象外であることを、並べて書いておくとよいでしょう。承認と弁済計画の組み立ては債務承認書・債務弁済契約書の作り方でも扱っています。
条文例第1条(滞納額の確認)
1借主は、貸主に対し、別表記載の期間に係る賃料及び共益費のうち、別表の「未払額」欄記載の合計○円(以下「本件滞納額」という。)の支払義務があることを認める。
2貸主と借主は、別表に記載のない金額(原状回復の費用、更新料、遅延損害金その他の名目を問わない。)は、本件滞納額に含まれず、この合意の対象でないことを確認する。
二つ目の項で、確認する範囲を線で区切る。退去後に出てくる費用を、いまの合意に含めるかどうかは、別に決める(後述の精算の条)。
原状回復費用や更新料を、滞納額に混ぜない
まだ発生していない原状回復の費用や、金額に争いのある修繕費を、滞納額に混ぜるのは避けたほうがよいことが多いです。借主は、通常の使用で生じた損耗や経年変化を除いて、借りた物に生じた損傷を原状に復する義務を負いますが(民法621条)、どこまでが借主の負担かは、退去のときの状態を見て決まります。合意の時点では金額が確定していないため、滞納額の確認と一緒にすると、確認の範囲があいまいになります。
滞納額を確定させる前の問い
- 滞納している賃料は、どの月からどの月までか。一部だけ入金のあった月はあるか。月ごとに未払額を出すため。一部入金は、どの月に充てたかで残高が変わる。
- 共益費、駐車場代、更新料など、賃料以外の請求は含まれているか。賃料と別の項目なので、同じ表の別の列に分ける。含めない項目は、含めないと書く。
- すでに遅延損害金を請求しているか。請求していないなら、今後請求するのか。遅延損害金の扱い(請求する、条件付きで免除する、請求しない)を次の条で決める。
- 賃貸借の貸主は誰か。管理会社が合意の相手になるのか、貸主本人の署名が要るのか。合意する権限がない者と合意しても、貸主を拘束できないおそれがあるため。
- 家賃保証会社が、すでに貸主に代わって払っていないか。保証会社が代位弁済していれば、その分の債権は保証会社が貸主に代わって行使できる(民法499条・501条1項)。合意の相手が変わる。
当月の家賃と分割金:二つの流れを分けて、入金の充て方を決める
分割の合意が崩れやすいのは、分割金が重いからだけではありません。毎月の家賃(将来分)と分割金(過去分)が、同じ日に同じ口座へ振り込まれ、どちらに充てられたのか分からなくなることも、大きな原因です。合意書には、次の三つを書きます。
- 当月分の家賃は、これまでどおり約定の日に払う。分割の合意は、賃貸借の条件(賃料、支払日)を変えるものではないと書く。
- 分割金は、毎月の指定日に、当月分の家賃とは別に払う。家賃の振込と分割金の振込を分けて、振込の目的が見て分かるようにする(名義の末尾に「ブンカツ」と添える、別口座にするなど)。
- 入金が不足したときの充て方を決める。当月分の家賃を先にするか、分割金を先にするか。合意があればそれに従う(民法490条)。
充当の順序の定めがないと、民法の規定が補います。同種の給付を目的とする数個の債務があるとき、弁済する側が給付の時に充てる債務を指定できます。指定しないときは受け取る側が受領のときに指定でき、どちらも指定しなければ、弁済期にあるものが先、弁済の利益が多いものが先、という順で決まります(民法488条1項〜4項)。さらに、元本のほか利息や費用を払うべき場合の順序(費用、利息、元本)は、同法489条1項が定めます。もっとも、これらは「合意がないとき」の補充で、合意があればそれが優先します(同法490条)。賃貸借の分割では、月々の家賃と分割金が別の債務なので、合意で決めておくほうが確実です。
入金の充て方の書き方
充当の順序
理由当月分の家賃が先に充たされると、新しい滞納が積み上がらない。順序は逆でもよいが、いずれにせよ明記して、借主にも貸主にも予測できるようにする。
振込の目的
理由合算で振り込むと、不足したときにどちらが足りないのか分からない。別々に振り込めば、入金の記録がそのまま充当の記録になる。
毎月の支払の見取り図(例)
| 時期 | 当月分の家賃 | 分割金 | 合計の目安 |
|---|---|---|---|
| 合意後の第1回 | 通常どおり | 第1回分 | 家賃+分割金 |
| 第2回〜最終回の前 | 通常どおり | 毎回同額 | 家賃+分割金 |
| 最終回 | 通常どおり | 端数を調整した額 | 家賃+最終回分 |
| 完済後 | 通常どおり | なし | 家賃のみ |
分割金は均等に割り、端数は最終回で調整する。最終回の期日が、滞納額の合計と回数から計算して合うかどうかを、合意書に書く前に確かめる。
条文例第2条(分割金の支払)
1借主は、本件滞納額を、令和○年○月から令和○年○月まで、毎月末日限り、各○円(最終回は○円)に分割して、貸主の指定する口座へ振り込む方法により支払う。振込手数料は借主が負担する。
2借主は、前項の分割金とは別に、賃貸借契約に定める賃料及び共益費を、同契約に定める期日までに支払う。この合意は、賃貸借契約の内容を変更するものではない。
3借主の支払額が、その月の賃料等と分割金の合計額に満たないときは、賃料等、分割金、遅延損害金の順に充当する。
遅延損害金は「請求する・条件付きで免除する・請求しない」のどれかを決める
滞納した家賃には、遅れた期間について遅延損害金が生じえます。賃貸借契約に遅延損害金の率が書かれていればその率、書かれていなければ法定利率で、損害の証明は要りません(民法419条)。借主が消費者(個人で住居として借りている場合など)で、貸主が事業者のときは、遅延損害金や違約金の合計が、支払期日の翌日から支払日まで年14.6パーセントを超える部分は無効です(消費者契約法9条1項2号)。上限の考え方は利息と遅延損害金の上限で整理しています。
分割の合意では、遅延損害金を「分割金を全額、期限どおりに払ったときは免除する」という条件付きの免除にする書き方があります。借主には期限どおりに払う動機が生まれ、貸主は、遅れたときに請求できる余地を残せます。条件を書くときは、免除の効力が生じる時点(最終回の入金を確認したとき)と、条件が満たされなかった場合に免除されない範囲(遅れた分の全部か、一部か)を、はっきり書きます。
条文例第3条(遅延損害金の取扱い)
1貸主は、借主が前条の分割金及び賃料等を期日どおりに支払い、最終回の分割金の入金を貸主が確認したときは、本件滞納額に係る遅延損害金の請求権を放棄する。
2借主が前条の支払を期日どおりに行わなかったときは、前項の放棄は効力を生じず、貸主は、賃貸借契約に定める率(定めがないときは法定利率)による遅延損害金を、各支払期日の翌日から支払済みまで請求することができる。
免除が「いつ」「何を条件に」効くのかを二項に分けて書くと、後の読み違いが減る。
分割金が遅れたとき:期限の利益の喪失と、賃貸借の解除は別の問題
家賃滞納の分割合意で、最も誤解されやすい箇所です。合意書に「分割金を1回でも遅れたら、残額を一括で払う」と書いた場合、起きるのは分割金の残りが一度に請求できるようになること、つまり期限の利益の喪失です。期限の利益とは、期限が来るまでは払わなくてよい、という利益のことで、期限は債務者の利益のために定めたものと推定されます(民法136条1項)。民法が定める期限の利益の喪失事由は、破産手続開始の決定を受けたときなどに限られますから(同法137条)、分割払いの遅れで一括請求ができる根拠は、通常は合意書の条項そのものにあります。書き方の方式は期限の利益喪失条項の7つの方式で比べています。
これに対して、賃貸借を終わらせる、つまり解除は、別の話です。賃貸借契約の解除は、借主が賃料を払わないという債務不履行に対して、相当の期間を定めて催告し、その期間内に履行がなければ、貸主が行うことができます(民法541条本文)。ただし、その期間を過ぎた時の不履行が、契約や取引上の社会通念に照らして軽微なときは、解除できません(同条ただし書)。催告なしで直ちに解除できる場合は限られています(同法542条1項)。さらに、条文には書かれていませんが、賃貸借のような継続的な契約では、単に1回払わなかったというだけでなく、滞納の期間や額、これまでの経緯、双方の事情を総合して、当事者の信頼関係が壊れたといえるかどうかが、解除の可否を左右する、という考え方が実務で広く用いられています。
二つの効果の違い
| 期限の利益の喪失(分割払いの合意) | 賃貸借の解除 | |
|---|---|---|
| 何が変わるか | 分割金の残額が一度に請求できる | 賃貸借が終わり、借主は物件を明け渡す義務を負う |
| 根拠 | 合意書の条項(民法136条・137条は前提) | 民法541条・542条、賃貸借契約の解除条項 |
| 遅れが1回のとき | 合意書の書き方しだいで、1回で効く | 1回の遅れだけでは足りないことが多く、事情の総合判断になる |
| 借主が払い直したとき | 条項しだいで、払い直せば戻る(請求喪失)か、戻らない(当然喪失)か | 催告で定めた期間内に払えば、解除の要件を満たさなくなる(民法541条) |
右の列は一般的な説明。個別の事案の見通しではない。
この区別を踏まえると、合意書の書き方の方針が見えてきます。分割金の不払いに対しては、残額の一括請求の条項を置く。賃貸借の解除については、合意書で新しい解除事由をつくろうとしない。つまり、「分割金を遅れたら賃貸借を当然に解除する」と書くのではなく、「この合意は賃貸借契約の解除に関する貸主の権利を放棄するものではなく、また分割金の不払いが賃貸借契約の債務不履行にもあたりうる」といった確認にとどめる、という方針です。
あらかじめ「遅れたら賃貸借は終了し、直ちに明け渡す」と決める条項は、借主にとって不利な特約として、効力が争われやすい条項です。借地借家法30条は、建物賃貸借の更新や解約申入れなどを定めた節の規定に反する特約で、建物の賃借人に不利なものを無効としており、その節には、貸主からの解約の申入れには正当の事由が要るという規定(同法28条)が含まれます。当然解除の特約がこれに当たるかは事案によりますが、効力が否定される余地があります。効力が争われる余地がある条項を書面に入れるより、合意書の外に解除の手続を残しておくほうが、貸主にとっても安全です。
遅れたときの条項の書き方
一括請求
理由「遅れた」の範囲と、催告の方法・日数を書く。1回で当然に失う方式は、貸主に有利だが、小さな遅れでも残額全部を請求できると読めてしまう。
解除との関係
理由合意書で解除の効力を決めようとすると、無効を主張されるおそれが出る。解除は賃貸借契約と法令に従う、と整理するほうが争いが少ない。
連絡不能
理由「所在不明」は評価が入るため、郵便の返戻や応答のない日数など、記録で確かめられる条件に置き換える。
条文例第4条(期限の利益の喪失)
1借主が、次の各号のいずれかに該当したときは、貸主が書面で通知することにより、借主は分割金の残額の全部について期限の利益を失い、直ちにこれを支払う。(1) 分割金の支払を連続して2回、又は合計3回以上怠り、貸主が10日以上の期間を定めて書面で催告したにもかかわらず、その期間内に支払わなかったとき。(2) 借主が、届け出た住所に宛てた書面が返戻されたときその他、借主への連絡が取れなくなったとき。
2前項の期限の利益の喪失は、賃貸借契約の解除その他の貸主の権利に影響を与えない。この合意は、賃貸借契約を変更し、又は貸主の解除権を放棄するものではない。
条件の回数や日数は一例。『書面』『催告』『届出のとおりの送付』を使い、評価が入る言葉を避けている。
連帯保証人の同意と、極度額の確認
賃貸借の契約書に連帯保証人の欄がある場合、分割の合意をしても、保証人の立場がどう変わるのかが問題になります。まず、保証契約は書面でしなければ効力を生じません(民法446条2項。電磁的記録も書面とみなされます。同条3項)。連帯保証人は、催告の抗弁・検索の抗弁を持ちません(同法454条)。保証の基本は連帯保証契約書・連帯保証人承諾書で扱っているので、ここでは家賃の保証に固有の点を挙げます。
第一に、極度額です。賃貸借から借主が負う債務を、一定の範囲で包括的に保証する契約は、保証人が個人のとき「個人根保証契約」にあたり、極度額を定めなければ効力が生じません(民法465条の2第2項)。極度額の定めは書面で行います(同条3項)。この規律は、民法改正の施行日(2020年4月1日)以後に結ばれた保証契約に適用され、それより前の契約には旧法が適用されます。合意書を作るときは、賃貸借契約書の保証人の欄に、極度額が書かれているかを確かめます。書かれていない場合は、保証の効力そのものに疑問が出ます。
第二に、分割の合意の効力です。主たる債務の元本が、保証契約の締結後に重くなっても、保証人の負担は重くなりません(民法448条2項)。分割払いは、期限を後ろへ延ばす合意ですから、保証人にとって不利益が増えるものではありません。一方、主たる債務者に対する履行の請求などによる時効の完成猶予・更新は、保証人にも効力が及びます(同法457条1項)。それでも実務では、保証人が「分割の話は聞いていない」と受け取るのを防ぐために、合意書の内容を示して、保証人に署名をしてもらいます。同意書面には、①分割の内容を知ったこと、②保証の範囲に変わりがないこと、③保証人が責任を負う金額の上限(極度額)が契約書のとおりであること、を並べます。
第三に、保証人への情報提供です。保証人が借主の委託を受けて保証したときは、保証人の請求があれば、貸主は遅滞なく、滞納の有無・残額・弁済期が来ている額などの情報を提供しなければなりません(民法458条の2)。また、保証人が個人の場合に、借主が期限の利益を失ったときは、貸主は、それを知った時から2か月以内に保証人にその旨を通知する必要があります(同法458条の3。保証人が法人のときは適用されません)。通知の効果は連帯保証契約書・連帯保証人承諾書でも扱っています。合意書に期限の利益の喪失の条項を置くなら、通知の手順も一緒に決めておきます。
第四に、保証人の死亡と元本の確定です。個人根保証契約の元本は、主たる債務者または保証人が死亡したときなどに確定します(民法465条の4第1項3号)。借主や保証人が亡くなったあとの滞納は、保証の対象に含まれない部分が出る場合があるため、合意の途中で当事者に変化があったときは、保証の取扱いを見直す必要があります。
条文例第5条(連帯保証人の同意)
1連帯保証人は、本合意書の内容を確認したうえで、これに同意し、賃貸借契約に基づく連帯保証の責任が、本合意書による分割払いの後も、従前と同じ範囲及び極度額(○円)で存続することを確認する。
2連帯保証人は、貸主が借主に対して本合意書の定めによる通知又は催告をしたときは、その内容が連帯保証人にも通知されることに同意する。
保証人の署名欄を、この条の下に置く。極度額は賃貸借契約書に書かれた金額と一致させる。
保証人まわりの確認
- 賃貸借契約書の保証人の欄に、極度額が書かれているか
- 保証人に、分割の内容(額、回数、期限の利益の喪失)を書面で示したか
- 保証人から、同意の署名をもらったか
- 保証人が法人(家賃保証会社など)か個人か。個人なら、期限の利益の喪失の通知(2か月以内)を忘れていないか
- 家賃保証会社が弁済済みなら、合意の相手は保証会社になっていないか
明渡しの約束と、公正証書・裁判所の手続
分割の合意に、「分割金が遅れたら、物件を明け渡す」という約束を加えたいという場面もあります。ここで押さえるのは、書面にできる約束と、強制執行できる約束は同じではない、という点です。
公証人が作る公正証書に、強制執行に服する旨の陳述(執行認諾)を入れれば、裁判を経ずに強制執行の手続に入れる債務名義(執行証書)になります。ただし対象は、「金銭の一定の額の支払」またはその他の代替物・有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求に限られます(民事執行法22条5号)。つまり、確定した滞納額の分割払いは公正証書にできますが、物件の明渡しは、この条文の対象に含まれません。要件の詳しい考え方は公正証書で強制執行できる金銭消費貸借で整理しています。また、毎月発生し続ける将来の家賃は、金額が流動するため、公正証書に入れるのは確定した滞納額の分割金にとどめるほうが安全です。
明渡しの強制執行は、執行官が債務者の占有を解いて債権者に占有を取得させる方法で行います(民事執行法168条1項)。その前提として、判決など別の債務名義が必要です。債務名義を手に入れる方法の一つに、簡易裁判所への和解の申立て(起訴前の和解。民事訴訟法275条1項)があります。和解が調うと、その記録は確定判決と同一の効力を有します(同法267条1項)。どの手続を選ぶかは、物件の状況や当事者の関係によるので、ここでは制度があることの紹介にとどめます。いずれの手続でも、鍵を替える、荷物を出すといった貸主側の自力の措置は、法律に定める手続の代わりにはなりません。
書面の種類と、強制執行ができる範囲
| 書面 | 金銭の分割払い | 物件の明渡し |
|---|---|---|
| 私的な合意書(署名のみ) | 強制執行はできない(払わないときは別途の手続が要る) | 同じ |
| 執行認諾付きの公正証書 | 確定した滞納額の分割払いは対象にできる(民事執行法22条5号) | 対象にならない |
| 裁判所での和解の記録 | 確定判決と同一の効力(民事訴訟法267条1項) | 定めがあれば、その定めに基づく手続の途がある |
表は制度の紹介。どの手続をとるかの判断や、手続の代理は、この表の範囲外。
合意書に「明け渡す」という文言を入れるなら、次の二点に注意します。一つは、その約束が条件付きなのか、期限付きなのかを書くこと。もう一つは、明渡しを約束した場合の、荷物の取扱いや、鍵の返却、退去時の立会いの日を書くこと。ただし、どれも、強制執行の効力をもたない私的な約束です。借主が自分から退去するときの段取りとして書く、と位置づけると、読み違いが減ります。
退去後の精算:敷金の充当と、未払いの残り
賃貸借が終わるときには、敷金(いかなる名目でも、賃料債務などの金銭債務を担保する目的で借主が貸主に交付する金銭)の精算があります。貸主は、賃貸借が終了して物件の返還を受けたとき、受け取った敷金の額から、賃貸借に基づいて生じた借主の債務の額を引いた残りを返さなければなりません(民法622条の2第1項1号)。借主が賃貸借に基づく金銭債務を払わないときは、貸主は敷金をその債務の弁済に充てることができますが、借主の側から「敷金で滞納分を払ってほしい」と求めることはできません(同条2項)。
この条文は、分割の合意に大きく関わります。借主が「敷金があるのだから、分割にしなくても、敷金で相殺してほしい」と求めても、賃貸借が続いているあいだは、貸主が応じる義務はありません。反対に、貸主は、敷金を滞納に充てるかどうかを選べます。合意書では、次のいずれかを書いておきます。
敷金の扱いの三つの型
- 1充当しない型賃貸借が続くあいだは敷金を滞納に充てず、分割金を払ってもらう借主の手元資金が少ないとき。賃貸借の終了時に、残る分割金と一緒に精算する旨を書く
- 2一部充当する型敷金の一部を滞納の一部に充て、残りを分割にする分割金を軽くしたいとき。充てた分の敷金を補充するかどうかも書く
- 3退去時精算型退去が決まった時点で、残る分割金・原状回復費用を敷金で精算する退去が見えているとき。精算書を作り、双方が確認する
条文例第6条(賃貸借終了時の精算)
1賃貸借契約が終了し、借主が貸主に物件を返還したときは、貸主は、借主から預かっている敷金から、本件滞納額の未払分、原状回復に要する費用その他賃貸借契約に基づく借主の債務を差し引いた残額を、借主に返還する。
2前項の差引きの内訳は、貸主が書面で借主に示し、借主が内容を確認する。敷金で足りない金額は、借主が貸主に支払う。
原状回復の費用の範囲は、民法621条の考え方(通常の使用による損耗・経年変化を除く)にそろえて、別に確認する。
借主が分割の途中で退去するときは、残りの分割金をどうするかも決めます。退去と同時に残額の期限の利益を失うと定める方法、退去後も分割を続ける方法、敷金で精算して差額だけを分割する方法があります。退去後の連絡先(転居先の住所、電話、勤務先)を貸主に届け出る義務を書いておくと、分割金の請求や通知が届きます。
起きがちなことと、合意書の最後に確かめること
完成前の最終確認
- 別表の滞納額の合計と、本文の金額が一致している
- 分割の回数・額・最終回の額・最終期日が、計算して合っている
- 当月分の家賃は通常どおり払い、分割金は別に払うと書いてある
- 入金の充当順序が書いてある(民法490条)
- 期限の利益の喪失の条項と、賃貸借の解除の条項が分かれている
- 連帯保証人の同意欄があり、極度額が賃貸借契約書と一致している
- 敷金の扱い(充当する・しない・退去時精算)が書いてある
- 当事者の署名・押印と、管理会社が合意する権限をもつことの確認がある
税金に関する取扱いは、この合意書の項目としては扱いません。税務の取扱いは別途確認が必要です。
よくあるご質問
家賃を滞納した借主と分割払いの合意をするとき、合意書には何を書けばよいですか。
滞納額(月ごとの内訳つき)、分割の回数・額・期日・振込の方法、当月分の家賃の払い方、入金の充て方、遅れたときの一括請求の条件、遅延損害金の扱い、連帯保証人の同意、敷金の扱いを書きます。借主が滞納額を確認して署名すると、権利の承認として時効が新たに進み始めます(民法152条1項)。
分割金を1回遅れたら、賃貸借も解除できますか。
分割金の残額を一括請求できる条項(期限の利益の喪失)と、賃貸借の解除は別の問題です。解除には、相当の期間を定めた催告と、その期間内に履行がないことが要り(民法541条)、不履行が軽微なときは解除できません。滞納の期間や額、経緯などの事情を総合して判断される、という考え方が実務で広く用いられています。一般的な説明で、個別の事案の見通しではありません。
連帯保証人には、分割払いの合意を知らせる必要がありますか。
法律上、分割の合意で保証人の負担が重くなることはありません(民法448条2項)が、保証人が内容を知らないままだと、後で食い違いが出ます。分割の内容を示して同意の署名をもらうのが一般的です。保証人が個人のときは、極度額が定められているかも確認します(民法465条の2)。保証人が個人で、借主が期限の利益を失ったときは、2か月以内に保証人へ通知が必要です(民法458条の3)。
分割払いの合意を公正証書にすれば、明渡しまで強制執行できますか。
できません。公正証書が執行証書になるのは、金銭の一定の額の支払などを目的とする請求に限られます(民事執行法22条5号)。確定した滞納額の分割払いは対象にできますが、物件の明渡しは含まれません。明渡しの強制執行は、別の債務名義を前提に、執行官が行います(同法168条1項)。
敷金があるのに、なぜ滞納分に自動で充当されないのですか。
賃貸借が続いているあいだ、貸主は敷金を滞納の弁済に充てることができますが、借主の側から「敷金を滞納に充てて」と求めることはできないからです(民法622条の2第2項)。合意書で、敷金を充てるか、充てないか、退去時に精算するかを決めておきます。
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