動産・預金・株式を担保にお金を貸すとき:譲渡担保と質権の契約書の書き方

機械や在庫、車、預金口座、会社の株式を担保にお金を貸す場面で、契約書に何を決めておけばよいかを、民法の条文と新しい譲渡担保法の概要にもとづいて整理します。

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このページの要点

  • 担保の方式は、貸主が預かる質権か、所有権を担保の目的で移す譲渡担保かを契約書に書いて選ぶ。
  • 担保にする物は目録で特定し、動産は占有・引渡し、預金は銀行の承諾、株式は会社の手続という、方式ごとの手続を決める。
  • 返せないときに「物は貸主のもの」と書いても足りず、評価して、余れば返し、足りなければ請求する清算が基本になる。
  • 保管・保険・処分の禁止と、担保を損なう行為による期限の利益の喪失を書き、新しい譲渡担保法の施行(令和9年12月まで)にも備える。

動産・預金・株式を担保にお金を貸すとき、契約書には何を決めておけばよいですか?

答えは、「担保の方式」「担保にする物の特定」「第三者に主張するための手続」「返せなくなったときの実行と清算」「担保の価値を保つ約束」の五つです。機械や在庫、車、預金口座、会社の株式を担保にする場面では、この五つのどれかが抜けたまま「担保に入れる」とだけ書かれた契約書がよく見られます。

このページは、民法などの条文と、公表されている新しい法律の概要にもとづく一般的な情報の整理です。特定の貸付や特定の物への当てはめではなく、実際の結論は、契約書の文言、物の種類、当事者の関係で変わることがあります。不動産に抵当権を付ける場合は個人間の貸付に抵当権を付けるとき、売掛金などの債権そのものを譲り受ける場合は債権譲渡契約書・ファクタリング契約の書き方で扱っています。貸付そのものの契約書の基本は借用書・金銭消費貸借契約書のページにあります。ここでは、動産・車・預金・株式を担保にする場面に絞ります。

結論を先に並べます。

  • 担保の方式は、質権(物を預かる)か譲渡担保(所有権を担保の目的で移す)かを、契約書に書いて選ぶ。「担保に入れる」「預ける」という呼び方だけでは、どちらなのか決まらない。
  • 担保にする物は、一覧表などで一つずつ特定する。「売上、資産その他の財産」のような書き方では、何が担保なのか分からない。
  • 第三者に主張できるかは、方式ごとに別の手続で決まる。動産は占有(質権)や引渡し(譲渡担保)、預金は銀行への通知・承諾、株式は株式会社の側の手続が関わる。
  • 返せないときに「物は貸主のものになる」と書いても、そのとおりには働かない。弁済期の前にそう約束することは、質権では民法が禁じている(民法349条)。実務では、評価して、足りなければ残りを請求し、余れば返す清算が基本になる。
  • 担保の価値が減らないように、保管・保険・処分の禁止を書く。担保を減少させたときは、期限の利益を主張できなくなる(民法137条2号)。

動産や債権を担保にする譲渡担保と所有権留保については、これまで条文がなかったルールを定める「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(令和7年法律第56号)が令和7年6月6日に公布されています。一部の規定を除き、公布の日から2年6か月を超えない範囲で政令の定める日に施行されます(令和9年12月6日までに施行される計算です)。本文は現行の民法を前提に、新法で変わる点に触れます。

質権と譲渡担保は何が違いますか?

答えは、「質権は貸主が物を預かる担保、譲渡担保は所有権を貸主に移したうえで借主が使い続けられる担保」です。どちらが適するかは、借主がその物を使い続ける必要があるかで、まず分かれます。

質権は、債権の担保として債務者または第三者から受け取った物を占有し、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利です(民法342条)。設定は、債権者に目的物を引き渡すことで効力が生じ(同法344条)、貸主は質権設定者に、自分に代わって質物を占有させることができません(同法345条)。つまり、借主が使い続ける形では質権になりません。動産の質権は、貸主が継続して占有していなければ第三者に対抗できず(同法352条)、占有を奪われたときは占有回収の訴えによってのみ回復できます(同法353条)。

一方、譲渡担保は、担保の目的で所有権などを貸主に移す形の担保です。現行の民法には譲渡担保について定めた条文がなく、これまでは判例の積み重ねと契約書の文言で形が決まってきました。借主が物を使い続けながら担保に差し出せる点が、事業の道具や在庫、車を担保にするときに選ばれる理由です。新しい法律は、この譲渡担保の効力、実行、倒産手続での扱いを、条文として整えるものです。

質権(動産)と譲渡担保の違い

比べる点動産質権譲渡担保
物を誰が持つか貸主が預かる(民法344条・345条)借主が手元に置いて使い続けられる(占有改定などで貸主が占有を取得したとして扱う)
第三者に主張する要件貸主が継続して占有すること(民法352条)動産は引渡し(民法178条)。法人が借主なら動産譲渡登記の制度もある
貸主の保管義務善良な管理者の注意で保管し、承諾なく使用・賃貸・担保提供をしない(民法350条・298条)借主が保管する。保管・保険・処分禁止を契約書で定める
返せないときの処分弁済期前に「物は貸主のものになる」と約束することは不可(民法349条)。裁判所の手続か、法律に定める方法契約書で、評価・取得・売却と清算を定める。余れば返し、足りなければ残りを請求する

担保の方式の名前を契約書に書いておくことで、貸主が預かるのか、借主が使い続けるのかがはっきりする。

代金の完済まで売主が所有権を持ち続ける所有権留保は、貸付ではなく分割払いの売買で売主が代金の回収を守る仕組みで、お金を貸したのか物を売ったのかで譲渡担保と区別します。新法は所有権留保についても、基本的に動産の譲渡担保と同様に扱う規律を置いています。

動産や車を担保にするとき、何を特定し、どう保管させますか?

答えは、「物を一つずつ特定した目録を別紙に付け、借主に保管と保険を約束させ、貸主が確認できるようにしておく」ことです。担保の契約書の事故は、実行の場面より、特定と保管の段階で起きることが多くあります。

目的物を一つずつ特定する

「借主の機械一式」「店舗の備品全部」という書き方では、実行のとき、どの物が担保なのかで争いになります。品名、メーカー、型番、製造番号、数量、保管場所を別紙にし、できれば現物の写真を添えます。購入時の請求書や領収書の控えも、借主の物であることの裏付けになります。

在庫のように入れ替わる物は、種類・保管場所・数量の範囲で枠を決める集合動産の担保になります。新しい法律は、所在場所その他の事項で定めた範囲の動産を一体として担保にできること、借主が範囲内の動産を処分して事業を続けられる一方で、担保の価値を貸主を害するほど減らしてはならないことを定めています。枠の定め方と、最低限の在庫量を契約書で決めます。

第三者に主張できるかと、二重に担保に入れられる危険

動産に関する物権の譲渡は、動産の引渡しがなければ第三者に対抗できません(民法178条)。引渡しには、現実に渡す方法のほか、借主が以後は貸主のために占有する意思を表示する占有改定(同法183条)があり、占有改定は外から見て占有者が変わらないので、第三者には分かりません。そのため、借主が同じ物を別の貸主にも担保に入れたり、売却したりする危険が残ります。取引行為によって、平穏かつ公然に動産の占有を始めた者が、善意で過失がないときは、その動産について即時に権利を取得します(同法192条)。貸主が先に担保を取っていたとしても、善意無過失の買主が占有を始めれば、担保を主張できなくなる場合があるということです。

新しい法律は、複数の譲渡担保権がぶつかったときの優劣を定め、法務省の解説資料によれば、占有改定で対抗要件を備えた譲渡担保権は、ほかの方法(現実の引渡しや動産譲渡登記)で対抗要件を備えた譲渡担保権に劣後するとされています。施行前に結ばれた契約がどう扱われるかは、施行時の経過規定で確かめる必要があります。

保管・使用・保険・立入りを書く

譲渡担保で借主が使い続ける場合も、質権で貸主が預かる場合も、物の価値が下がれば担保が痩せていきます。質権者には、善良な管理者の注意で占有する義務があり、債務者の承諾がなければ使用、賃貸、担保提供ができません(民法350条・298条1項・2項)。違反すれば、債務者は質権の消滅を請求できます(同条3項)。貸主が預かる質権で、貸主がその物を使う予定があるなら、使用の承諾を契約書に書いておきます。

条文例第○条(被担保債務と目的動産)

1借主(以下「乙」という。)は、貸主(以下「甲」という。)に対する令和○年○月○日付金銭消費貸借契約に基づく債務(元本、利息、遅延損害金及び第○条の費用をいう。以下「本件債務」という。)を担保するため、別紙目録記載の動産(以下「本件動産」という。)の所有権を甲に譲渡し、甲はこれを譲り受ける。

2乙は、前項の譲渡と同時に、以後、本件動産を甲のために占有する意思を表示し、甲はこれを承諾する。

3本契約による担保は、本件債務に限り、甲乙間のその他の債務には及ばない。

被担保債務を貸付契約の日付と内容で限定する。占有改定による引渡しを書いておくことで、第三者に対する主張の入口を作る。

条文例第○条(保管と使用)

1乙は、善良な管理者の注意をもって本件動産を保管し、別紙記載の保管場所から、甲の書面による承諾なく移動しない。

2乙は、本件動産を通常の用法に従って使用することができる。ただし、売却、貸与、他の担保への提供その他、甲の権利を害する一切の処分をしてはならない。

3乙は、本件動産に、時価に相当する額の動産総合保険を付し、保険証券の写しを甲に交付する。保険金請求権に担保を設定するときは、保険会社所定の手続に乙が協力する。

4甲は、事前に通知して、本件動産の状態及び保管場所を確認することができる。乙はこれに協力する。

三項は保険、四項は貸主の確認権。担保を滅失・損傷・減少させたときは期限の利益を主張できなくなるので(民法137条2号)、期限の利益の喪失事由にも同じ内容を入れておく。

自動車を担保にするとき:車検証と鍵を預かるだけでは足りない

車を担保にして貸すとき、車検証、鍵、委任状を預かれば足りると考えられがちです。しかし、預かること自体が担保の契約になるわけではありません。まず、方式を決めます。貸主が車を預かる質権にすると、借主は車を使えません。借主が使い続けるなら、所有権を貸主に移す譲渡担保として組み立てることになります。

普通車などの登録自動車は、登録された所有者が第三者への関係でも意味を持つ仕組みになっていて、車検証の所有者欄の名義が実務上の重要な点です。軽自動車などは、登録の制度が同じではなく、車検証の所有者欄の扱いも普通車と同じとは限りません。貸付の担保では、名義の扱い(貸主名義にするのか、借主名義のまま契約書で縛るのか)を書いて選ぶ必要があります。

書く内容は、動産一般の特定と保管に加えて、次のものです。車種・登録番号・車台番号の特定、使用者と保管場所(駐車場)、自動車保険と車両保険の付保と保険証券の写し、事故や盗難の通知、名義を移すための書類(譲渡証明書、委任状、印鑑証明書など)の預かり、車検の期限の管理です。完済したときに、名義を元に戻すための貸主の協力義務も書いておきます。

「滞納したら車を引き揚げる」という条項は、借主の占有を実力で奪う根拠にはなりません。手順は「返済が止まったとき」の節で整理します。

預金を担保にするとき、通帳と印鑑を預かれば足りますか?

答えは、「足りません」です。預金は、銀行に対する権利(預金債権)です。通帳と印鑑は、その権利を引き出すための道具であって、権利を担保にしたことを銀行や第三者に主張する手続とは別です。預金を担保にする方法は、質権を設定する方法と、貸主が自分で預かっている金銭と貸付を相殺する方法の二つに分けて考えます。

他の金融機関にある借主の預金に質権を設定する

質権は、財産権を目的とすることができ(民法362条1項)、預金債権のような債権を目的とする質権は、第三債務者(銀行)に質権の設定を通知するか、銀行がこれを承諾しなければ、銀行その他の第三者に対抗できません(同法364条)。しかも、銀行以外の第三者(他の債権者など)に対抗するには、通知や承諾を確定日付のある証書でする必要があります(同法467条2項)。つまり、預金担保では、貸主と借主の契約書のほかに、銀行の承諾を得て、確定日付を取った承諾書の手続が欠かせません。

預金債権には、預金規定で譲渡・質入れを制限する定めが付くのが通常で、民法は、預貯金債権の譲渡制限の意思表示を、知り又は重大な過失で知らなかった譲受人その他の第三者に対抗できるとしています(民法466条の5第1項)。預金への質権は、金融機関が承諾するときに限って使える方法で、契約書では「承諾が得られるまで貸付を実行しない」順序を決めておきます。

質権者は、質権の目的である債権を直接に取り立てることができます(民法366条1項)。債権の目的物が金銭であるときは、自己の債権額に対応する部分に限って取り立てられます(同条2項)。預金が貸付額より大きいときに、全額を持っていくことはできない、ということです。なお、譲渡担保法と同時に成立した整備法では、債権質権者も目的である債権の全額を取り立てられるよう、民法のこの規定を改めることとされています(法務省の概要資料)。施行までは現行の条文が基準です。

条文例第○条(預金債権への質権設定)

1乙は、本件債務を担保するため、乙が○○銀行○○支店に対して有する次の預金債権(口座の種類、口座番号、満期日)に質権を設定し、甲はこれを受ける。

2乙は、甲と共同して、前項の銀行に質権の設定を通知し、銀行の承諾を得て、確定日付のある承諾書を取得する。甲は、承諾書の取得を確認した後に貸付を実行する。

3乙は、質権の存続中、本件預金について、解約、払戻しの請求、振替その他、質権の価値を損なう行為をしない。

4乙が期限の利益を失ったとき、甲は、本件債務の額に対応する部分に限り、本件預金から直接取り立てて、本件債務の弁済に充てることができる。

二項で順序(承諾書が先、貸付は後)を決める。三項は、借主が口座から引き出す危険を契約で縛るもの。実際に引出しを止めるには銀行側の取扱いが要る。四項は民法366条2項の範囲をそのまま書いた。

貸主が預かっている金銭と相殺する

貸主が借主から保証金や預り金を預かっているときは、質権を設定しなくても、貸付金と預り金を対当額で相殺できます。二人が互いに同種の債務を負担し、双方が弁済期にあるときは、各債務者は対当額で相殺により債務を免れます(民法505条1項)。相殺は、一方から相手方への意思表示でし、条件や期限を付けられません(同法506条1項)。預り金の返還の期限が来ていなければ、そのままでは相殺できないので、契約書で「期限の利益を失ったときは預り金の返還期限も到来するものとして相殺できる」旨を決めておく、という使い方があります。

株式を担保にするとき、名義や議決権はどうしますか?

答えは、「質権か譲渡担保かを選び、株式会社の側の手続と、担保の期間中の議決権・配当・価値の維持を契約書で決める」ことです。株式は、持っている会社が上場しているか、株券を発行しているか、株式の譲渡に会社の承認が必要か、で扱いが変わります。中小企業の株式の多くは、株券を発行せず、譲渡に会社の承認が要る形(譲渡制限)がとられています。

質権の場合、株券を発行しない会社では、質権者の氏名・住所を株主名簿に記載・記録しなければ、会社その他の第三者に対抗できないとされています。株式の質権は、会社の側の手続を伴うため、会社の協力が得られるかが前提です。譲渡担保の場合は、株式を貸主に譲渡する形になり、名義書換えを伴うと、貸主が会社の株主として議決権や配当を受ける立場になります。譲渡制限株式であれば、会社の承認が必要になることもあります。いずれも、会社法の細かい手続があるため、契約書では「会社の承認と名簿の手続を、借主の責任で取る」と書いたうえで、手続を完了した時点を、貸付の実行の条件に結びつけておきます。

株式を担保にする二つの方法

比べる点質権譲渡担保
株主の立場借主が株主のまま(議決権・配当は借主)名義を貸主に移せば、貸主が株主になる(議決権・配当の扱いを決める)
会社の手続株券不発行なら、質権者の氏名・住所を株主名簿に記載・記録(会社その他の第三者への対抗)名義書換え。譲渡制限株式では会社の承認が関わる
実行裁判所の手続か、法律に定める方法契約書で評価・取得・売却と清算を定める(新しい譲渡担保法の対象かどうかは確認が要る)
契約書で決めること議決権の行使の制限、配当金の扱い、価値を損なう行為の禁止議決権の行使を借主に委ねる範囲、配当金の充当、名義の戻し方

会社法の具体的な手続は、会社の種類(株券の有無、譲渡制限の有無)で変わる。契約書では、手続の完了を貸付の実行の条件にする。

株式の評価と、株で返す約束

株式は、動産と違って値段が日々動き、上場していない会社の株式には市場価格がありません。担保として取るなら、評価の方法(誰が、どの時点の何を基準に評価するのか)を決めておかないと、実行のときに「いくらで担保に取ったのか」を争うことになります。実務で見られる貸付の契約書には、現金で返すかわりに、借主が持つ会社の株式を貸主に譲渡して返せるという選択肢があります。これは、代物弁済の約束に近い仕組みです。代物弁済とは、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることで債務を消滅させる契約で、弁済者が他の給付をしたときは弁済と同一の効力があります(民法482条)。

この約束には、株式の分割・併合があるときは株数を同じ比率で調整する、貸付金と利息の合計より株式の時価が下回るときはこの方法を使えない、現金か株式かは協議のうえ貸主が決める、という工夫が見られます。株式担保の契約書にもそのまま使え、評価の下限と担保の範囲(無償割当てなどで増えた株式を含むか)を決めることにつながります。株で返す選択肢そのものは出資契約書と貸付の違いのページで扱っています。

返済が止まったとき、担保物をどう処分し、どう清算しますか?

答えは、「担保物を評価し、貸付の残額に充て、余れば借主に返し、足りなければ残りを請求する」という清算を前提に、手順を契約書に書いておくことです。「返せなければ物は貸主のものになる」と書いても、そのとおりには働きません。

期限の利益の喪失は、担保の面でも決めておく

期限は、債務者の利益のために定めたものと推定され(民法136条1項)、債務者は、担保を滅失、損傷、減少させたときや、担保を供する義務を負う場合にそれを供しないときは、期限の利益を主張できません(同法137条2号・3号)。ただ、この規定だけでは、物を売ったり、別の貸主に担保に入れたりした場合の手当てとしては不十分です。契約書では、無断の処分、保管場所の無断移動、保険の失効、差押え、担保価値の下落を、期限の利益の喪失事由に加えておきます。喪失事由の方式の比べ方は分割返済が1回遅れたら一括請求できるかで整理しています。

物を実力で取り上げることはできない

担保を実行する場面で、借主の手元の物を貸主が実力で持ち去ることは、契約書に書いても許される行為にはなりません。質権の場合は、弁済期の前の契約で、弁済として質物の所有権を貸主に取得させる約束や、法律に定める方法によらない処分の約束はできません(民法349条)。弁済を受けられないときは、動産質権者は、正当な理由がある場合に限り、鑑定人の評価に従って質物を直ちに弁済に充てることを裁判所に請求できます(同法354条)。この場合、あらかじめ請求する旨を債務者に通知しなければなりません。

裁判所の手続で動産を競売にかける場合の開始の要件は、執行官への動産の提出、占有者が差押えを承諾した旨の文書の提出、裁判所の許可決定の送達のいずれかです(民事執行法190条1項)。債権(預金など)を目的とする担保権の実行は、担保権の存在を証する文書の提出が開始の要件です(同法193条1項)。確定日付のある承諾書など、担保の成立を示す書面を残しておく意味は、ここにあります。

譲渡担保でも、判例上、実行のときには担保物の価額と被担保債権の差を清算する義務があるとされています。新しい法律は、裁判所の手続によらない私的実行の方法を定め、法務省の解説資料によれば、設定者が事業の再生に必要な手段を取るための猶予として、譲渡担保権者が目的財産を自ら取得する方式(帰属清算)では、評価額や被担保債権額を知らせる通知から2週間が過ぎた時(動産では、2週間の前でも譲渡担保権者が引渡しを受けた時)に、実行の効果が生じるとされています。第三者に処分する方式(処分清算)でも、通知から2週間という猶予が置かれます。目的財産の価額が被担保債権額を上回るときは、清算金を返す義務が明文化されます。また、動産譲渡担保権の実行のための保全処分や引渡命令の規定が置かれます。倒産手続では、譲渡担保権者は質権と同様に担保権者として扱われることが明文化されます。契約書を作る立場では、施行までは判例の考え方と契約の文言、施行後は新法の手順に合わせて、評価の方法と通知の手順を書き込んでおくのが現実的です。

担保物の清算の計算例(動産・車を譲渡担保にした場合)

項目例1:評価額が高い例2:評価額が低い
残元本80万円80万円
利息・遅延損害金4万円4万円
実行の費用(保管・運搬・評価)6万円6万円
被担保債権の合計90万円90万円
担保物の評価額(売却なら売却代金)120万円70万円
清算の結果30万円を借主に返す20万円が残債務として残る

金額は説明のための例。評価額が合計を上回れば差額を返し、下回れば残りは請求できるという考え方を、契約書の条文に落とす。

条文例第○条(実行と清算)

1乙が期限の利益を失ったときは、甲は、乙に対し、○日以上の期間を定めて書面で通知したうえ、本件動産の引渡しを求めることができる。

2甲は、引渡しを受けた本件動産を、評価額により自ら取得する方法、又は第三者に売却する方法のいずれかにより、本件債務の弁済に充てる。甲は、処分に先立ち、評価額又は売却予定額とその根拠を乙に通知する。

3評価額(売却の場合は、売却代金から処分に要した費用を控除した額)が本件債務の額を超えるときは、甲は、その超える額を乙に支払う。評価額が本件債務の額に満たないときは、乙は不足額を支払う。

4乙が本件債務の全額を弁済したときは、甲は、直ちに本件動産の所有権を乙に返還し、そのために必要な書類を交付する。

二項の通知と根拠の提示、三項の清算が、「貸主が一方的に安く評価して取り上げる」形を避ける要。四項は、完済後に所有権(自動車なら名義)を戻す協力を書いたもの。

担保物の価値が貸付額に足りないおそれがあるなら、公正証書の併用も考えられます(公正証書で強制執行できる金銭消費貸借)。

よくある失敗と直し方:担保の条項で見られる書き方を点検する

担保の条項は、貸主が守られたい気持ちから、広く、強く書かれがちです。実務で見られる書き方には、強く書くほど効き目が弱くなるものが少なくありません。契約書の点検で繰り返し出てくる型を、直し方と一緒に整理します。債権を担保にする契約書でよく見られる型は、動産や株式の担保にもそのまま当てはまります。

書き方の例(一般的な例) 担保の条項

担保する債務

ありがちな書き方甲乙間で現在又は将来発生する一切の債務を担保する。
整えた書き方令和○年○月○日付の金銭消費貸借契約に基づく債務(元本、利息、遅延損害金、第○条の費用)を担保し、その他の債務には及ばない。

理由「一切の債務」を担保にすると、借主は何が担保されているのか分からず、貸付とは別の取引の債務まで取り上げられる心配が出る。担保の範囲が際限なく広がる。

担保の目的物

ありがちな書き方乙は、甲の求めに応じて、事業の売上、資産その他の財産を担保として提供する。
整えた書き方別紙目録記載の動産(品名・型番・製造番号・保管場所)に譲渡担保を設定する。設定の方法と手続を、本契約で定める。

理由求めに応じて提供する、という約束は、実際には何も担保になっていない。目的物を特定し、設定の契約と対抗要件の手続を同じ書面で結ぶ。

実行の方法

ありがちな書き方甲は、乙への通知催告なく、担保物を自己の裁量で売却し、充当の順序及び方法も甲が定める。
整えた書き方期限の利益の喪失後、○日以上の期間を定めて通知し、評価額と根拠を示したうえで取得又は売却し、余りは乙に返す。充当は民法の順序(費用、利息、元本)による。

理由裁量だけで安く処分できる書き方は、清算の義務に反し、争いになりやすい。評価と清算の手順を書いたほうが、貸主の処分の正当性を示せる。

担保提供の禁止

ありがちな書き方乙は、本件動産を第三者に担保提供してはならない。
整えた書き方乙は、本件動産の売却、貸与、譲渡担保、質権、所有権留保その他の処分及び担保の設定をせず、違反したときは期限の利益を失う。

理由「担保提供」だけでは、譲渡担保や所有権留保が入るのか曖昧になる。禁止の範囲を方式ごとに並べ、違反の効果を期限の利益の喪失につなげる。

ヒヤリングで確認すること、起きがちなこと、最後に確かめること

担保の契約書を整えるときに、聞いておく項目と、その理由を並べます。答えが分からない項目があるまま契約書を書くと、方式の選び方や条項の強さが変わってしまいます。

聞き取り票 担保の契約書を作る前の問い

  1. 担保にする物は、借主だけの物ですか。共有、リース、ローンの残っている物、所有権留保付きの物ではありませんか。他人の物を担保にはできない。ローンやリースが残っている物は、先に権利を持つ者がいる。
  2. その物は、借主が手元で使い続けますか。それとも貸主が預かれますか。使い続けるなら譲渡担保、預かれるなら質権。民法は、質権者が設定者に占有させることを認めていない(民法345条)。
  3. 担保物の価値はいくらと見ていますか。見積りの根拠は何ですか。貸付額との差はどれくらいですか。実行のときの清算(差額を返す、足りなければ残りを請求する)の前提になる。根拠がないと評価で争いになる。
  4. 預金の場合、銀行は質権設定を承諾してくれますか。満期はいつですか。承諾が得られなければ、質権は使えない(民法364条、466条の5)。満期が貸付の期限より前なら、担保が途中で切れる。
  5. 株式の場合、会社は株券を発行していますか。譲渡制限はありますか。他の株主は誰ですか。手続が変わる。担保の期間中の議決権や、実行後に貸主が株主になることの影響も決める必要がある。

完成前の最終確認

  • 被担保債務が、貸付契約の日付と内容で特定されている
  • 担保にする物が、目録(品名、型番、製造番号、保管場所、または口座・株式の特定事項)で特定されている
  • 質権か譲渡担保かの方式が書かれ、対抗要件の手続(占有、引渡し、銀行の承諾、会社の手続)が決まっている
  • 保管・使用・保険・立入り確認・処分禁止が書かれている
  • 期限の利益の喪失事由に、担保を損なう行為が含まれている
  • 実行の手順(通知、評価、取得か売却か)と、清算(余りを返し、足りなければ請求)が書かれている
  • 貸付が反復継続するものでないか、利息の定めが法令の上限の範囲かを確認している

よくあるご質問

動産を担保に貸すとき、質権と譲渡担保のどちらにするべきですか。

借主がその物を使い続ける必要があるかで分かれます。貸主が預かるなら質権で、民法は設定者に占有させることを認めていません(民法345条)。借主が使い続けるなら、所有権を担保の目的で貸主に移す譲渡担保として組み立てます。現行の民法には譲渡担保の条文がなく、新しい法律(令和7年法律第56号)が令和9年12月までに施行される予定です。方式の名前は契約書に書きます。

車を担保に貸すとき、車検証と鍵を預かるだけでよいですか。

それだけでは足りません。預かること自体が担保の契約になるわけではないためです。質権にするなら貸主が車を預かる形になり、借主は使えません。借主が使うなら譲渡担保として、車種・登録番号の特定、名義の扱い、保険、事故の通知、完済後に名義を戻す協力を書きます。借主の占有を実力で奪う根拠にはなりません。

預金を担保にするには、通帳と印鑑を預かれば足りますか。

足りません。預金は銀行に対する権利で、質権を設定したことを銀行その他の第三者に主張するには、銀行への通知または銀行の承諾が必要で(民法364条)、他の債権者に対抗するには確定日付のある証書による必要があります(同法467条2項)。預金規定の譲渡制限との関係もあるため(同法466条の5)、銀行の承諾を前提にします。

株式を担保にするとき、貸主名義に書き換えてよいですか。

質権か譲渡担保かで違います。名義を貸主に移す譲渡担保なら、貸主が株主として議決権や配当を受ける立場になるため、行使の範囲を契約書で決めます。譲渡制限株式では会社の承認が関わります。質権なら、借主が株主のままで、会社側の手続(名簿の記載など)を取ります。手続の完了を貸付の実行の条件にしておくのが基本です。

返せないときに、担保物を貸主のものにするという約束は有効ですか。

質権では、弁済期の前に、弁済として質物の所有権を取得させる約束をすることはできません(民法349条)。譲渡担保でも、判例上、担保物の価額と債権額の差を清算する義務があるとされています。物を評価して、残額に充て、余れば返し、足りなければ残りを請求する、という清算の条項を書きます。

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本ページは一般的な情報提供です。個別の契約への当てはめは、当事者の関係や取引の実態によって結論が変わることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています。参考: e-Gov法令検索

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