売掛金・未払い代金・工事代金の分割払い合意書の作り方

取引先から未払いの代金を分割で払いたいと言われたとき、貸付金の分割とは違う確認が要ります。残っているのは何の請求書か、取引は続くのか、署名する人に権限はあるのか、の三つから整理します。

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このページの要点

  • 残っている代金は、請求書の番号ごとの別表で確認し、検収が済んでいない分や争いのある分は対象から切り分ける。
  • 取引を続けるなら、新しい請求分と分割金を分け、振込をどちらに充てるかを合意で決める(民法490条)。相殺の扱いも書く。
  • 遅れたときの一括請求は、会社が相手なら、支払停止や差押えなどの事由を並べ、催告を要する事由と要しない事由に分ける。
  • 署名による承認は時効を新たに進めるが、効力は承認した者だけに及ぶ(民法152条1項・153条3項)。会社と代表者は別々に署名する。

結論:分割払いの合意書は、残っている代金を請求書の単位で確定し、新しい取引との分け方と、遅れたときの扱いまで決める

納めた商品の代金、提供した作業の報酬、完成させた工事の代金が払われないまま月日が過ぎ、取引先から「一度には払えないので、分割にしてほしい」と申し出られる。代金を後日に払う約束で売った取引の未回収分を、一般に売掛金と呼びます。工事代金や報酬も、請求して払われていない状態なら、同じ性質の未払い代金です。

貸したお金の分割返済と違い、この場面では、取引がまだ続いていて新しい請求と過去の未払いが同時に動くこと、請求の根拠が契約書・納品書・請求書・検収の記録に散らばっていて「その分は認めていない」と言われる余地があること、取引先が会社なら署名する人の権限が問題になることが、特有の事情です。分割の回数と金額だけを書いた合意書は、この三つに答えていないため、後になって効きません。結論を先に並べます。

  • 認めてもらう未払い分は、請求書の番号ごとに別表へ並べる。合計金額だけでは、中身の食い違いが後から出る。
  • 検収や引渡しが済んでいない分、返品や値引きの話が残っている分は、確認の対象から切り分ける。
  • 取引を続けるなら、新しい請求分は分割金とは別に払ってもらい、振込をどちらに充てるかは合意で決める(民法490条)。
  • 遅れたときの一括請求(期限の利益の喪失)の事由には、会社が相手なら、資金繰りの悪化を示す事由も並べる。
  • 署名による確認は債務の承認にあたり、時効が新たに進み始める(民法152条1項)。効力は承認した当事者だけに及ぶので(同法153条3項)、会社と代表者は別々に署名してもらう。

このページは、債権者ご自身が取引先と分割払いの条件を話し合い、結果を書面にする場面の整理です。条件を決めて取引先とやり取りするのは当事者ご本人で、ここでは選べる書き方とその理由を紹介します。貸付金の分割の一般的な決め方は分割払いの合意書・返済条件の決め方、債務を認める書面の作り方は債務承認書・債務弁済契約書の作り方、家賃の滞納は家賃滞納の分割払いの合意書で扱っています。ここでは取引代金に特有の論点に絞り、契約を結ぶ段階の支払条件(着工金や出来高払いの決め方)は別のガイドに譲ります。

売掛金の分割払い合意の進み方

  1. 1 残高を確定する請求書・納品・検収の記録と、入金の記録を突き合わせる。
  2. 2 取引先の事情を聞く払える額と時期、取引を続けるか、署名者は誰か。
  3. 3 合意書にまとめる別表、新規取引との分け方、喪失事由、保証をそろえる。
  4. 4 署名と保管権限を確かめて署名・押印を受ける。
  5. 5 毎月の入金を確かめる入金の充当先を記録し、遅れたら条項どおりに通知する。

何の代金が、いくら、誰に対して残っているのか:請求書の単位で確定し、争いのある分は切り分ける

分割の申出を受けたとき、取引先は債務そのものは認めていても、金額の内訳まで同じ認識とは限りません。入金の消し込みが食い違っている、返品の扱いが決まっていない、追加の作業を頼んだ覚えがないと言われる、といった食い違いは、合計金額だけの合意書では解決しないまま残ります。

未払い分は、請求書の番号ごとの別表にする

合意書の本文には合計額を書き、内訳は別表に、請求書の番号の単位で並べます(金額は説明のための例です)。

未払い代金の確認表(別表)の例

請求書番号取引の内容請求額入金額未払額検収・引渡し
第○号部材の納品480,000円0円480,000円検収済み
第○号工事の中間金650,000円200,000円450,000円完了を確認済み
第○号追加の作業120,000円0円120,000円承諾メールあり
合計―1,250,000円200,000円1,050,000円本文の金額と一致

返品の協議が続いている90,000円の請求分は、この表に載せず、対象外として別に扱います。

最後の列が大切です。検収とは、買主や注文者が、納品物や仕事の結果が契約の内容に合っているかを確かめて受け取ることです。基本契約に、検収期間内に通知がなければ合格とみなす定めがあるときは、期間が過ぎた事実を日付つきで書きます。定めがないときは、検収を終えた事実を、取引先に書面で確認してもらいます。

支払期日の起算点が、「請求書を受領した後」「自社が顧客から入金を受けた後」のように相手の行為にかかっている契約もあります。この場合、いつから遅れているのかが曖昧になります。到来時期が確定していない期限(不確定期限)の債務は、期限の到来後に請求を受けた時か、到来を知った時のいずれか早い時から遅滞になり(民法412条2項)、期限を定めなかった債務は、請求を受けた時から遅滞になります(同条3項)。合意書では、起算点を相手の行為に預けず、「令和○年○月から毎月○日限り」と具体的な日付で決めます。

返品、値引き、品質への指摘など、取引先が差し引きを主張している分は、確認の対象に混ぜません。混ぜると、署名した側が「その部分は認めていない」と言い、合意書全体の信頼が下がります。署名の対象を争いのない部分に限れば、その部分は債務の承認になります。

条文例第1条(確認する債権)

1乙は、甲に対し、別表に記載した各請求書に係る代金のうち、「未払額」欄記載の合計金1,050,000円(以下「本件代金」という。)の支払義務があることを、何らの異議なく認める。

2別表記載の各取引について、乙は、検収又は引渡しが完了していること、及び請求の内容に誤りがないことを確認する。

3別表に記載のない請求、並びに返品、値引き、リベートその他乙が甲に対して主張する金額は、本件代金に含まれず、その取扱いを甲乙が別途書面で協議する。この合意は、それらに関する甲乙双方の権利を妨げない。

第3項で、確認する範囲と確認しない範囲に線を引いています。

債務者は誰か:屋号、個人、会社、代表者

個人事業主が屋号で取引していれば、債務者は屋号ではなく事業主個人です。会社が相手でも、請求書の宛名が代表者個人だったり、グループの別会社が発注していたりします。当事者欄には、請求書や基本契約書の記載を、登記上の名称・所在地・代表者と突き合わせた表記を使います。会社の場合は、登記上の代表者に肩書を付けて署名してもらい、会社の届出印を押してもらうのが基本です。担当者が署名するなら、会社を代表して合意する権限を、委任状などで押さえます。また、その売掛金を第三者に譲渡したり担保に出したりしていないかも確かめます。譲渡済みなら、債権者自身が合意する立場にない場合があります(債権譲渡契約書・ファクタリング契約の書き方)。

工事代金・請負代金の分割:引渡し、出来高、追加工事、不具合の指摘を先に整理する

請負とは、一方が仕事の完成を約束し、相手がその結果に報酬を払うことを約束する契約です(民法632条)。報酬は、目的物の引渡しと同時に払うのが原則です(同法633条)。仕事が完成前に解除されたときなどは、すでにした仕事のうち可分な部分で注文者が利益を受けるなら、その割合に応じた報酬を請求できます(同法634条)。そこで、未払いの工事代金を分割する前に、工事がどの状態にあるかを確かめます。

工事の状態ごとに、合意書の前に確かめること

工事の状態代金の根拠確かめること
完成して引渡し済み報酬は引渡しと同時に払うのが原則(民法633条)引渡しの日、完了を確認した書面、契約代金と既払い額
途中で中止・解除された注文者が受ける利益の割合に応じた報酬(民法634条)出来高の算定資料と、算定を注文者が認めているか。既払いの着工金・中間金との差引き
追加・変更を含む追加・変更の合意がある範囲追加の見積書、承諾のメールや書面。口頭だけの追加分は別表に載せない
不具合の指摘が出ている不適合を知った時から1年以内に通知すれば、追完や代金の減額などを求められる(民法637条1項)指摘の日付と内容。不具合のない部分と争いのある部分を分けられるか

不具合を理由に、注文者が代金の支払を拒むと主張することがあります(同時履行の抗弁。民法533条)。どこまで認められるかは程度によるため、合意書では、争いのない部分と争いのある部分を分けます。

追加工事は特に争いになります。「書面による合意のない追加工事の代金は支払わない」と定めた契約が少なくなく、現場で口頭で頼まれた追加分は請求の根拠が弱くなります。分割の合意の場で追加分も確認してもらうなら、追加の見積書や承諾の記録を別表に添え、金額を承認してもらいます。得られない分は、第1条第3項のとおり対象外にします。また、着工金や中間金を受け取っているときは、それがどの工事のどの部分に充てられたのかを書きます。注文者の都合で中止になったとき、未施工部分に相当する着工金を返す定めのある契約では、その精算の計算も別表に入れます。

注文者が個人(消費者)のときは、不具合に基づく権利を放棄させる書き方が、消費者契約法10条により争われるおそれがあるため、通知済みの不具合は対象から外す形にとどめます。

取引先が、事業者に仕事を出す立場にあるとき

取引先がフリーランスなど個人に業務を委託する側なら、報酬の支払期日に法律の規律がかかります。フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は、特定業務委託事業者が報酬の支払期日を、給付を受領した日から60日の期間内で、かつ、できる限り短い期間内に定めなければならないとしています(同法4条1項)。債権者が個人で業務を受けていて、取引先がこの立場にあるなら、元の支払期日の定め方が規律に沿っていたかは、分割に応じるかを考える材料になります。事業者どうしの委託には取適法(中小受託取引適正化法)にも支払期日などの規律があり、建設工事の下請には建設業法に別の規律があります。どれが対象になるかは取引の内容と当事者の規模などで決まるため、ここでは可能性を挙げるにとどめます。

取引を続けるとき:新しい請求と分割金を分け、入金の充て方と相殺まで決める

分割の合意が崩れる典型は、取引先が新しい注文を出し続け、新しい納品分の代金だけを払って、過去分の分割金を後回しにすることです。取引を続けるなら、新しい請求の扱いを先に決めます。型は三つに分かれます。

取引を続けるときの三つの型

  1. 1取引を止めて精算する型分割が終わるまで、新しい注文を受けない。資金繰りが厳しい取引先向け。基本契約の解除と一時停止を書き分ける。
  2. 2新しい分は前払いにする型過去分は分割、新しい注文は前払いか納品時の現金払い。前払いが分割金に充てられたと扱われないよう、充当の条を置く。
  3. 3残高の上限を決める型過去分の残りと新しい売掛けの合計が上限を超えるときは、新しい注文を受けない。上限の計算に分割の残高を含めるかを明記する。

取引を止める根拠について補足します。同時履行の抗弁(相手が履行を提供するまで自分の履行を拒める仕組み。民法533条)は、一つの契約から生じる債務どうしの関係を前提にしています。過去の未払いを理由に、新しい契約の納品を止められるかは当然には決まらないため、止める権利を合意書に書いておきます。

条文例第5条(新たな取引の取扱い)

1甲乙は、本合意後も、既存の取引基本契約に基づく取引を継続する。ただし、本件代金の完済までの間、新たな注文に係る代金は、納品前に、乙が甲の指定する口座へ振り込む方法により支払う。

2乙が分割金の支払を遅延したときは、甲は、その遅延が解消されるまでの間、新たな注文の受注及び出荷を停止することができる。この停止は、基本契約の解除を意味しない。

3前二項は基本契約を変更するものではない。ただし、基本契約と抵触する場合は、本合意の定めを優先する。

第2項で取引の一時停止と契約の解除を分け、第3項で基本契約との優先関係を決めています。

入金の充て方(充当)を決めておく

取引先が一括で振り込んだとき、その金額をどの債務に充てるかが問題になります。同種の給付を目的とする債務が数個あるとき、支払う側は支払の時に充てる債務を指定でき、指定しなければ、受け取る側が受領の時に指定できます(民法488条1項・2項)。どちらも指定しないと、弁済期にあるものを先にし、それでも並ぶときは、債務者のために弁済の利益が多いものを先にする、という順で決まります(同条4項)。請求書どうしでは利益の多寡が見分けにくいため、合意で順序を決めます。合意があれば、民法の規定に優先します(民法490条)。順序の違いは、どちらが遅れとして扱われるかを左右します。

振込150,000円の充当の例(期日の来た請求の合計は190,000円)

充当の順序分割金へ新しい請求書へ不足が出る債務
新しい請求書を先にする60,000円90,000円分割金に40,000円の不足
分割金を先にする100,000円50,000円新しい請求書に40,000円の不足

不足の総額はどちらも40,000円です。前者では分割金の遅れとなって期限の利益の喪失の判断に進み、後者では新しい請求書の遅れになります。分割を守らせたいなら分割金を先に、新規の遅れを許さないなら新しい請求書を先に、と債権者の方針で選びます。

相殺と、取引先による差し引き

取引先が、返品代金や販促費の負担などの自分の債権を、分割金から差し引いて振り込んでくることがあります。相殺は、二人が互いに同種の債務を負担し、双方の債務が弁済期にあるときに、対当額で債務を免れる仕組みで(民法505条1項)、一方から相手方への意思表示で行います(同法506条1項)。当事者が相殺を禁止し、または制限する意思表示は、第三者には、第三者がそれを知り、または重大な過失で知らなかったときに限って対抗できます(同法505条2項)。当事者の間で、分割金の相殺や差引きを原則として封じ、取引先の債権は別に精算すると定めることは、契約の自由の範囲です(同法521条2項)。ただし、正当な債権まで封じる書き方は署名を拒まれる原因になるため、範囲は絞ります。

逆に、債権者の側にも取引先への支払(仕入れ代金、外注費など)があるなら、分割にする前に、相殺で残高を減らす選択肢があります。相殺の意思表示には条件や期限を付けられないため(同法506条1項)、「期日どおり払えば相殺しない」といった条件付きの通知は書けません。相殺する債権と対当額を書面で通知し、残額を分割の対象にします。

払われなかったときの定め:会社が相手のときの期限の利益の喪失事由と、遅延損害金の決め方

期限の利益とは、期限が来るまでは払わなくてよいという債務者の利益です。民法は、期限は債務者の利益のために定めたものと推定し(民法136条1項)、破産手続開始の決定を受けたときなどに、期限の利益を主張できなくなるとしています(同法137条)。分割金が遅れただけでは残りを一括請求できないため、合意書に事由を書きます。方式の比較は分割返済が1回遅れたら一括請求できるかで整理しているので、ここでは、取引先が会社で取引が続く場合に加えたい事由を挙げます。

取引先が会社のときに考えたい喪失の事由

事由書き方の要点注意
新規取引の代金の不払い新しい請求書の支払が遅れたときも事由に含めるかを決める含めると、取引が続くほど喪失の機会が増える。遅れが何日続いたとき、と限る書き方もある
支払停止、手形・小切手の不渡り資金繰りの悪化を示す、外から確認できる事由として並べる債権者には自動で知らされない。取引先に通知させる義務を置く
差押え、仮差押え、競売の申立て他の債権者の動きを事由にする取引先からの通知がなければ分からない。通知の期限を決める
破産、民事再生などの申立て申立ての段階で喪失させるか、開始決定の段階かを書く民法137条1号は破産手続開始の決定だけを定める。申立ての段階には合意書の定めが要る

継続取引では二段構えが使いやすくなります。支払の遅れのように、払い直せば解決する事由は、催告をしても払われないときに請求で喪失させます。支払停止や差押えのように、払い直しでは解決しない事由は、催告なしで当然に喪失させます。保証人が個人の場合は、喪失を知った時から2か月以内に保証人へ通知しないと、喪失から通知までの遅延損害金を保証人に請求できません(民法458条の3第1項・2項。法人の保証人は同条3項で除外)。

遅延損害金の決め方と計算

遅延損害金とは、金銭の支払が遅れたときに、遅れた期間に応じて払う賠償金です。約定がなければ、遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率によります。約定の利率が法定利率を超えるときは、約定の利率によります(民法419条1項)。損害の証明は要りません(同条2項)。法定利率は年3%から始まり、3年ごとに見直されるため(民法404条2項・3項)、請求する時点の率を確かめます。事業者どうしの取引では、年14.6%と定める例がよく見られます。取引先が消費者(個人の施主など)のときは、支払期日の翌日から支払日までの期間について、年14.6%を超える部分が無効です(消費者契約法9条1項2号)。

遅延損害金の計算例(年365日の日割。金額は説明のための例)

場面元本率日数遅延損害金
分割金1回分が遅れた100,000円年14.6%10日400円
同じ場面を、法定利率が年3%として計算100,000円年3%10日82円(1円未満切捨て)
期限の利益を失い、残額が遅れた800,000円年14.6%30日9,600円

計算式は「元本×率×日数÷365」です。期限の利益を失った後は、残額の全体が元本になります。

売掛金を準消費貸借(既存の債務を消費貸借の目的とする約束。民法588条)に組み替える方法もありますが、貸付の利率や遅延損害金の上限の規律が問題になります。考え方は個人間の貸付の利息と遅延損害金の上限で整理しています。

条文例第8条(期限の利益の喪失と遅延損害金)

1乙が分割金の支払を期日に怠り(一部の支払があった場合を含む。)、甲が10日以上の期間を定めて書面で催告したにもかかわらず、その期間内に支払わないときは、乙は、甲の請求により、本件代金の残額について期限の利益を失い、直ちにこれを支払う。

2乙が、支払を停止したとき、手形若しくは小切手が不渡りとなったとき、仮差押え若しくは差押えを受けたとき、又は破産手続開始、民事再生手続開始その他これらに類する手続の申立てをし、若しくは受けたときは、通知又は催告を要することなく、当然に期限の利益を失い、直ちに残額を支払う。乙は、これらの事実を知った日から3日以内に、甲に書面で通知する。

3乙は、本件代金の支払を遅延したときは、支払期日の翌日から支払済みまで、遅延した額に対し年14.6%の割合(年365日の日割計算)による遅延損害金を支払う。

催告の日数や率は一例です。取引先が消費者のときは、第3項の率を年14.6%以下にします。

払われなくなる前の備え:代表者の保証、公正証書、時効の管理

取引先が会社なら、会社の財産だけでは回収しきれないことがあります。その備えに、代表者個人に加わってもらう方法が三つあります。保証契約は書面でしなければ効力が生じません(民法446条2項)。合意書の本文に一文を混ぜるだけでなく、保証の範囲が分かる別の書面で署名してもらいます(連帯保証契約書・連帯保証人承諾書)。

代表者に加わってもらう三つの方法

方法内容注意
連帯保証会社が払わないときに、代表者が払う責任を負う(民法446条1項)分割する本件代金だけか、今後の取引の代金までか。後者は個人なら極度額(上限額)を書面で定めないと無効(民法465条の2)
連帯債務者として加わる会社と代表者が連帯して債務を負う。債権者はいずれにも請求できる(民法436条)一人について生じた事由は、原則として他の者に及ばない(民法441条本文)。承認もそれぞれが行う
併存的債務引受代表者が、会社の債務と同じ内容の債務を連帯して負う(民法470条1項)債権者と引受人となる者の契約でできる(同条2項)。書面で交わす

保証人には、分割の内容を示して同意の署名をもらいます。主たる債務が後から重くなっても、保証人の負担は重くなりませんが(民法448条2項)、主たる債務者への履行の請求や承認による時効の完成猶予・更新は、保証人にも及びます(同法457条1項)。事業のために負担した貸金等債務(金銭の貸渡しまたは手形の割引で負担する債務。同法465条の3第1項)の個人保証には、契約前1か月以内の公正証書で保証の意思を示す必要がありますが(同法465条の6第1項)、主たる債務者が法人の場合のその取締役などが保証人になるときは適用されません(同法465条の9第1号)。売掛金のままの分割に保証を付けるときと、準消費貸借で貸付金に組み替えた債務に保証を付けるときとで、この確認の要否が変わり得ます。

公証人が作る公正証書に、直ちに強制執行に服する旨の陳述を入れると、債務名義(強制執行の根拠になる文書)になります。ただし対象は、金銭の一定の額の支払などを目的とする請求に限られます(民事執行法22条5号)。確定した未払額の分割金は対象にできますが、これから増える新規取引の代金は金額が決まっていないため、入れません(公正証書で強制執行できる金銭消費貸借)。署名がもらえない、または払われないときの裁判所の手続には、訴訟、支払督促、訴え提起前の和解(民事訴訟法275条1項)などがあり、支払督促と訴え提起前の和解は時効の完成猶予の事由になります(民法147条1項2号・3号)。手続を選ぶのは債権者ご本人です。

時効にも気を配ります。売掛金や工事代金などの債権は、権利を行使できると知った時から5年、行使できる時から10年で消滅します(民法166条1項)。ただし、2020年4月1日より前に生じた債権には、改正前の短い時効が適用される場合があるため、古い取引では取引の時期を先に確かめます。取引先の承認で時効は新たに進行しますが(同法152条1項)、効力が及ぶのは承認した当事者とその承継人の間だけです(同法153条3項)。会社が署名しても、代表者個人の時効は更新されません。催告(内容証明で支払を求めること)は6か月の完成猶予を生みますが、猶予中の再度の催告に猶予の効力はありません(同法150条)。時効の利益はあらかじめ放棄できないため(同法146条)、「時効を援用しない」と書いても効力は生じません。

よくある失敗と直し方

書き方の例(一般的な例) 売掛金・未払い代金の分割払い合意書

確認する債権の特定

ありがちな書き方令和○年○月末時点の売掛金残高金○円の支払義務があることを認める。
整えた書き方別表記載の請求書番号ごとの未払額の合計金○円とし、別表に載らない請求・返品・値引きは対象外と明記する。

理由合計額だけでは、どの請求書の分かで争いが生じる。請求書単位なら、承認した範囲に線が引かれる。

支払期日の起算点

ありがちな書き方請求書の受領後30日以内に支払う。顧客から入金があり次第、支払う。
整えた書き方令和○年○月から毎月○日限り、請求書の到達にかかわらず支払う。

理由起算点を相手の行為に預けると、遅れの起点が決まらない(民法412条)。

清算条項

ありがちな書き方本合意書に定めるほか、甲乙間に一切の債権債務がないことを確認する。
整えた書き方対象を別表記載の請求書に限り、本合意の日以降の取引から生じる債権債務を妨げない、と書く。

理由取引が続くなら、未請求の作業分やこれから生じる代金まで放棄したと読まれかねない。

取引の打ち切り

ありがちな書き方分割金の支払を怠ったときは、基本契約を直ちに解除する。
整えた書き方遅れは、催告のうえで新規の受注・出荷の停止を認める定めとし、解除は基本契約の定めによる。

理由停止と解除は別の効果。解除は相当の期間を定めた催告が基本で、不履行が軽微なときはできない(民法541条)。

催告書の期限

ありがちな書き方本書到達後7日以内(令和○年○月○日まで)にお支払いください。
整えた書き方「到達後7日以内」とするか、日付で指定するかのどちらかにそろえる。

理由到達日が決まらないうちに日付を固定すると、到達から数えた7日と食い違う。

署名する人

ありがちな書き方担当者の氏名で署名してもらう。
整えた書き方登記上の代表者が肩書を付けて署名し、会社の届出印を押す。担当者なら委任状を添える。

理由権限のない署名は、後で会社が合意を否定する理由になる。

ヒヤリングで確認すること、起きがちなこと、署名前の最終確認

聞き取り票 売掛金の分割払い合意書を作る前に

  1. 未払いの請求書は何通で、発行日・金額・支払期日・入金の状況はどうなっているか。別表の元になるためです。入金をどの請求書に充てたかが食い違うと、残高が合いません。
  2. 納品・引渡し・検収は済んでいるか。みなし検収の定めはあるか。検収が済んでいない分は、支払期日が来ていない可能性があるためです。
  3. 取引先が差し引きを主張している事柄(返品、値引き、不具合、リベート)はあるか。確認の対象から外す範囲を決めるためです。
  4. 取引先は会社か個人事業主か。請求書の宛名と、署名する人は誰か。債務者の特定と、署名者の権限の確認のためです。
  5. 取引先が払える額と時期の見込みは。自社の顧客からの入金の時期に波はあるか。守れない計画は、すぐに期限の利益の喪失の場面になるためです。
  6. 分割の後も取引を続けるか。続けるなら、新しい注文の支払条件は。新しい請求と分割金を分ける型を選ぶためです。
  7. 基本契約に、遅延損害金の率・期限の利益の喪失・管轄の定めはあるか。債権の譲渡や担保はないか。合意書との優先関係と、合意する立場の確認のためです。
  8. 最も古い支払期日から何年たっているか。取引先が最後に支払や承認をしたのはいつか。時効の確認のためです(民法166条1項)。

署名の前に確かめること

  • 別表の未払額の合計が本文の金額と一致し、分割の回数・額・最終期日も計算して合っている
  • 検収・引渡しの状況が埋まり、争いのある分が対象から外れている
  • 新規取引の支払条件、入金の充当の順序、相殺・差引きの扱いが書いてある
  • 期限の利益の喪失の事由と、催告を要するかどうかが書いてある
  • 遅延損害金の率が決まっている(取引先が消費者なら年14.6%以下)
  • 登記上の代表者の署名と届出印がある。保証や連帯債務を加えるなら代表者個人の署名もある
  • 公正証書にするなら、対象を確定した金額に限っている

よくあるご質問

売掛金を分割にする合意書には、何を書けばよいですか。

請求書の番号ごとの別表(請求額・入金額・未払額・検収の状況)、分割の回数・額・期日、新規取引との分け方と入金の充当の順序、相殺や差引きの扱い、遅れたときの期限の利益の喪失、遅延損害金、署名者の権限を書きます。取引先が署名して債務を承認すると、時効は新たに進行を始めます(民法152条1項)。

取引を続けながら、過去の未払いを分割にしてもよいですか。

続けられますが、新しい請求分と分割金を分けて決めます。新しい注文は前払いにする、残高に上限を設ける、遅れたら受注と出荷を止められる、といった型があります。振込をどちらに充てるかは、合意で決められます(民法490条)。

取引先が会社のとき、代表者にも署名してもらうべきですか。

回収の備えとして、代表者に保証人か連帯債務者として加わってもらう方法があります。保証は書面でしなければ効力がありません(民法446条2項)。また、時効の更新の効力は承認した当事者にしか及ばないので(同法153条3項)、会社と代表者それぞれの署名が要ります。

分割金から、取引先が返品代金などを差し引いてきたら、どうなりますか。

取引先が自分の債権で相殺する意思表示をすれば、その分だけ債務が減ります(民法505条1項、506条1項)。合意書で、分割金の相殺や差引きを原則として禁止し、取引先が持つ債権は書面で通知して別に精算する、と定めておくことができます。

公正証書にすれば、これから増える新規取引の代金も強制執行できますか。

できません。公正証書が強制執行の根拠になるのは、金銭の一定の額の支払などを目的とする請求に限られます(民事執行法22条5号)。確定した未払額の分割金は対象にできますが、金額が決まっていない新規取引の代金は、同じ公正証書に入れません。

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本ページは一般的な情報提供です。個別の契約への当てはめは、当事者の関係や取引の実態によって結論が変わることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています。参考: e-Gov法令検索

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