このページの要点
- 貸金の時効は、知った時から5年、行使できる時から10年の早いほうで、多くは返済期日の翌日から5年。
- 5年が過ぎても自動では消えず、借主や保証人の援用で初めて効く。援用されると数え始めの日にさかのぼる。
- 請求書・内容証明は完成を6か月先送りするだけ。承認、書面による協議の合意、手続のどれかへ進む。
- 保証人への請求は借主の時効を止めず、借主への請求は保証人にも及ぶ。「援用しない」の事前の約束は無効。
結論:貸金の時効は多くの場合「返済期日の翌日から5年」。完成しても自動では消えず、近いときは早く手を打つ
貸したお金を何年も返してもらえないまま時間が過ぎると、「もう時効ではないか」「まだ請求できるのか」という疑問が出てきます。ここでいう時効は、お金を請求する権利が、一定の期間使われないために消える「消滅時効」です。結論から言うと、貸金の請求権は、貸主が返してもらえる時期になったことを知った時から5年、返してもらえる時期になった時から10年、そのどちらか早いほうが過ぎると、時効にかかる仕組みです(民法166条1項)。貸金では、返済期日が契約書に書いてあり、貸主はその日が来たことを当然に知っているので、実際には「返済期日の翌日から5年」で数えることがほとんどです。
ただし、5年が過ぎれば債権が自動的に消えるわけではありません。時効は、借主(保証人など、権利が消えることに正当な利益のある人を含みます)が「時効の利益を受けます」と主張すること、つまり援用をして初めて、裁判所が時効を前提に判断できます(民法145条)。援用がされるまでは、請求する権利は残っています。一方で、時効が完成してから援用されると、その効力は5年を数え始めた日にさかのぼります(民法144条)。このため、時効の完成が近いかどうかは、請求書を出す時期、承認の書面を取る時期、手続に進む時期のすべてに響きます。
このページは、個人間の貸し借りや、会社が従業員・取引先に貸したお金の請求権を、貸主の側から整理したものです。特定の貸付への当てはめではなく、契約書の文言や事実の経過によって結論は変わります。貸した証拠の残し方はお金を貸した証拠の残し方、請求書面の組み立ては貸金返還請求の内容証明の書き方、借主に残高を認めてもらう書面は債務承認書・債務弁済契約書の作り方で扱っています。要点を先に並べます。
- 時効期間は「知った時から5年」「行使できる時から10年」の早いほう。貸金は返済期日が分かっているので、ほとんどが5年になる(民法166条1項)。
- 起算点は貸し方の型で変わる。期日に一括で返す型、分割で返す型、期限の利益を失う条項がある型、返す時期を決めていない型で、数え始める日が違う。
- 請求書や内容証明は時効を止めるのではなく、完成を6か月先送りするだけ。先送りの間に、承認の書面、協議の合意、裁判所の手続のどれかへ進まなければ、時間は再び進む(民法150条)。
- 借主が一部でも返す、残高を認める書面に署名する、といった承認があると、時効は新たに数え直しになる。(民法152条1項)
- 「時効を援用しない」とあらかじめ書かせても効力はない。時効の利益は、あらかじめ放棄できない(民法146条)。
- 保証人への請求は借主の時効を動かさないが、借主への請求は保証人にも及ぶ。(民法457条1項、153条2項)
5年か10年か、起算点はどこか:貸し方の型ごとに数え始めの日が違う
「5年」と「10年」は、どちらか早いほうで切れる
民法166条1項は、債権が消える場合を二つ並べています。一つは、債権者が権利を行使できることを知った時から5年間行使しないとき(1号)、もう一つは、権利を行使できる時から10年間行使しないとき(2号)です。二つは別々に走っていて、先に満了したほうで債権は消えます。貸金では、返済期日が来れば貸主は請求できますし、その期日が来たことは貸主が知っています。「行使できる時」と「知った時」は重なるので、5年のほうが先に満了します。10年が実際に問題になる場面は、権利を行使できる時期が来たことを貸主が知らなかった、と言える特別な事情がある場合などに限られ、通常は期待できません。
10年が本当に関わってくるのは、裁判で請求が認められて判決が確定したときなどです。確定判決や、それと同じ効力のあるもので確定した権利は、もともとの時効期間が10年より短くても、時効期間は10年になります(民法169条1項)。ここで見落としやすいのが、公正証書です。強制執行認諾文言のある公正証書は、裁判を経なくても強制執行の手続を始められる書面(債務名義)ですが、民事執行法22条は、公正証書を5号に、確定判決と同一の効力を有するものを7号に、別の号として並べています。公正証書にしたからといって、時効が10年に延びるわけではありません。公正証書の使いどころは公正証書で強制執行できる金銭消費貸借で整理しています。
貸し方の型で、数え始めの日が変わる
時効は「権利を行使できる時」から数え始めます。貸金の契約書は、返済の時期の書き方がさまざまで、書き方によって「いつから数えるのか」がはっきりしたり、曖昧になったりします。実務で多い型を並べます。
返済の型と、時効の数え始め
| 型 | 契約書の書き方(例) | 数え始め(一般的な整理) | 気をつけること |
|---|---|---|---|
| 期日に一括 | 「令和○年○月○日限り、元金全額を返済する」 | 返済期日の翌日から5年。期日が数え方の出発点になる。 | 期日を過ぎたらすぐ記録(督促の日、返事の有無)を始める。 |
| 分割払い | 「毎月末日限り○円ずつ○回払い」 | 各回の期日の翌日から、それぞれ5年。回ごとに別々に進む。 | 古い回から順に満了していく。最後の入金より前の回が先に切れることがある。 |
| 期限の利益を失う条項付き | 「1回でも遅れたときは当然に全額を直ちに支払う」 | 遅れた日から、残り全額について進み始めると考えられる。請求して初めて失う型なら、請求した時から。 | 「当然に失う」と書くと、最初の遅れの日から残額全体のカウントが始まる側面がある。 |
| 返す時期を決めていない | 「貸主から請求があったときに返す」「資金に余裕ができたら返す」 | 貸した日そのものから進むとは限らず、いつから進み始めると見るかは見解や事情によって分かれ、争いになりやすい。 | 起算点が曖昧なまま年月が過ぎやすい。書面で期限を確定させる対策が先。 |
「一般的な整理」は条文の趣旨から読めるもので、個別の貸付の起算点は、契約書と事実の経過で決まります。
返す時期を決めていない型は、少し丁寧に見ておきます。返還の時期を定めなかったときは、貸主は相当の期間を定めて返還の催告をすることができます(民法591条1項)。借主のほうは、時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返せます(同条2項)。時期の定めがない債務は、履行の請求を受けた時から遅れた扱いになりますが(民法412条3項)、それと「時効がいつから進むか」は別の問題です。親族や友人への貸付では「資金に余裕ができたら」「求めがあったときに」と書かれることが多く、貸主が催告をしないまま10年近く経つと、時効の起算点がいつだったのか、貸主と借主の主張が分かれやすくなります。返済の時期が曖昧な貸付こそ、書面で最終期限を置いておく意味があります。分割払いの決め方は分割払いの合意書・返済条件の決め方で扱っています。
期限の利益を失う条項も、時効と結びつきます。期限の利益とは、期限が来るまでは返さなくてよいという借主の利益のことで、期限は債務者の利益のために定めたものと推定されます(民法136条1項)。分割払いの契約では、遅れたときに残りの期限の利益を失わせて、全額を一度に請求できるようにする条項を置きます。この条項が「当然に失う」型か「貸主の請求で失う」型かによって、残額全体の時効がいつから進むのかが変わり得ます。方式の違いは分割返済が1回遅れたら一括請求できるかで比べています。時効の面から言えるのは、「当然に失う」型にしたときは、最初に遅れた日が、残額全体の時効の出発点になり得ることを念頭に置いて、遅れた日を記録しておく、ということです。
満了日の数え方と、時効が近いときの時系列
初日は数えず、応当日の前日の終了で満了する
期間の計算は民法の通則に従います。日・週・月・年で期間を定めたときは、期間の初日は算入しません(民法140条)。年で定めた期間は暦に従って数え(民法143条1項)、起算日に応当する日の前日の終了で満了します(民法141条、143条2項)。つまり、返済期日が令和5年4月30日なら、起算日は翌日の5月1日で、5年後の応当日(令和10年5月1日)の前日、令和10年4月30日の終了で満了します。期日の翌日から数えて、5年後の期日の日までが期間、と覚えると間違えにくくなります。
分割払いの数え方の例(金額・日付はすべて説明用の例)
| 返済の回 | 期日 | 払われたか | 時効の起算日 | 満了日(5年) |
|---|---|---|---|---|
| 1回目 | 令和5年2月28日 | 払われた | — | — |
| 2回目 | 令和5年3月31日 | 払われた | — | — |
| 3回目 | 令和5年4月30日 | 未払い | 令和5年5月1日 | 令和10年4月30日 |
| 4回目 | 令和5年5月31日 | 未払い | 令和5年6月1日 | 令和10年5月31日 |
| 12回目(最終) | 令和6年1月31日 | 未払い | 令和6年2月1日 | 令和11年1月31日 |
毎月末日に5万円ずつ12回払いの貸付で、3回目から払われなくなった場合の例です。期限の利益を失う条項が「遅れたら当然に全額」の型で、3回目の遅れの日に全額の期限が到来したと見るなら、未払いの回の全額について、令和5年5月1日から5年、つまり令和10年4月30日に満了する整理になり得ます。どの整理になるかは契約書の条項で決まります。
この例で見えるのは、分割払いの貸付では、最後の回の期日からではなく、最初に払われなかった回の期日から数えておくほうが、安全側の見方になる、ということです。回ごとに別々に数える型でも、古い回から順に満了していきます。「最後に入金があった日」を基準に5年を数えて安心していると、条項の読み方次第では、すでに一部が満了しているかもしれません。
時効の完成が近いときに確認する順番
- 1 満了日を出す契約書と入金記録から、起算日と満了日を計算する。回ごと・貸付ごとに出す。
- 2 更新の有無を探す満了前に、借主が一部を返した、残高を認めた、猶予を求めた事実がないか日付で探す。
- 3 残り期間を見る満了までに半年以上あるか、数週間か、すでに過ぎているかで、使える手段が変わる。
- 4 手段を選ぶ承認の書面、書面による協議の合意、催告、裁判所の手続から、日程に合うものを決める。
催告は6か月しか稼げず、その間にさらに催告しても延びません。満了まで半年以上あるうちに動くと、選べる手段が増えます。
催告の6か月の数え方も、同じ通則です。たとえば、満了日が令和10年4月30日の貸金について、令和10年4月10日に催告の書面が相手に届いたとします。到達の日は数えず、翌日の4月11日から数えて、6か月後の応当日(10月11日)の前日、令和10年10月10日の終了まで、時効は完成しません(民法150条1項、143条2項)。ただし、これは「4月30日の満了を10月10日まで先送りする」効果で、猶予の期間が終わった時に元の期間がすでに満了していれば、その時点で時効が完成します。猶予の間に、承認、書面による協議の合意、裁判所の手続のいずれかに進んでいなければ、猶予は6か月しか意味を持ちません。
止める・延ばす・やり直す:貸金の場面での使い分け
時効に関する用語は紛らわしいので、貸金で使う三つの言葉を整理します。完成猶予は、時効が完成する時期を先送りすることです。猶予の事由が終われば、残りの期間が再び進みます。更新は、それまでの経過が白紙に戻り、新たに5年が始まることです。援用は、前の節で見たとおり、借主の側が時効の利益を受けると主張することです。貸主が使える道具を、貸金の場面に当てはめて比べます。
貸金の時効に使える主な手段
| 手段 | 効果 | 貸金の場面で必要なこと | 限界 |
|---|---|---|---|
| 催告(請求書、内容証明) | 到達から6か月、完成を猶予する(民法150条1項)。 | 貸主ご本人の名前で、貸付の特定と請求額を書き、到達日が分かる方法で送る。 | 猶予の間の再度の催告には効力がない(同条2項)。更新ではない。 |
| 書面による協議の合意 | 合意から1年(協議期間を1年未満で定めたときはその期間)、または協議続行の拒絶の通知から6か月のいずれか早い時まで猶予する(民法151条1項)。 | 貸付の特定、協議の対象、協議の期間を書面(電磁的記録でもよい。同条4項)にして双方が署名する。 | 催告の猶予中の合意や、合意の猶予中の催告には、猶予の効力がない(同条3項)。再度の合意は元の満了時から通じて5年が限度(同条2項)。 |
| 権利の承認 | その時から時効が新たに進む(民法152条1項)。 | 借主が残高を認める書面に署名する。一部弁済や猶予の申出も承認にあたる場合がある。 | 承認の効力は承認した人との間だけ(民法153条3項)。額や原因が特定されていないと範囲が曖昧になる。 |
| 裁判所の手続 | 支払督促・訴え提起前の和解・調停などの事由が終わるまで猶予し、権利が確定すれば新たに進む(民法147条)。 | 手続の中身は、本ページでは扱わない。 | 取り下げ等で確定しなかったときは、終了から6か月で再び進む。 |
各手段の詳しい要件は条文の確認が要ります。ここでは、貸金で「どれがどの働きか」の整理にとどめます。
承認は「書面」だけではない:一部の返済、猶予の頼み、分割の申出
時効の更新で大きいのは承認です。承認は、借主が債務の存在を認めることで、署名のある書面に限りません。一部の弁済、利息の支払、「来月まで待ってほしい」という猶予の申出、分割払いにしたいという申出などが、承認にあたる場合があります。貸主にとっては、時効の完成直前でも、借主が少額でも返してくれれば、その時から新たに5年が始まる可能性があります。承認をするのに、借主が行為能力の制限を受けていないことや、処分の権限があることは要りません(民法152条2項)。
ただ、承認にあたるかどうかは、事情ごとに判断されます。「後で返す」と言ったという記憶だけでは、いつ、何を認めたのかを後から示せません。入金は通帳の記録、申出はメッセージの日時と全文、通話は日時と内容のメモを残します。そのうえで、残高と原因を特定して認めてもらう書面を作れば、承認の中身が一つの書面で確定します。作り方は債務承認書・債務弁済契約書の作り方の通りで、債務の原因と金額、これまでに払われた額、残高を計算で一致させることが要になります。
保証人・連帯債務者・担保があるとき:誰に何が及ぶか
貸金には、保証人が付いていたり、借主が二人いたり、不動産に抵当権が付いていたりします。時効の完成猶予や更新は、人ごとに効き方が違うので、整理しておかないと「請求したつもり」で穴が開きます。
請求・承認が誰に及ぶか
| 事由 | 主たる借主への事由 | 保証人への事由 | 連帯債務者の一人への事由 |
|---|---|---|---|
| 請求(催告・裁判上の請求) | 借主への請求による完成猶予・更新は、保証人にも及ぶ(民法457条1項)。 | 保証人への請求は、借主には及ばない(民法153条2項)。 | 一人への請求は、原則として他の連帯債務者に効力を生じない(民法441条)。 |
| 承認 | 借主が承認すれば、借主の時効は更新される。保証人への効力は457条1項で及ぶ。 | 保証人が承認しても、更新は保証人との間だけ(民法153条3項)。借主の時効は更新されない。 | 一人の承認は、他の連帯債務者の時効を更新しない(同条3項、441条)。 |
連帯保証人にも、主たる債務者について生じた事由の効力に関する民法457条1項が及びます。連帯債務者の間では、当事者が別の意思を表示した場合は、その意思に従います(民法441条ただし書)。
保証人がいる貸付では、借主への請求を忘れずにすることが大切です。借主への催告や承認が、保証人にも及ぶ仕組みになっているからです。反対に、保証人にだけ請求書を出しても、借主の時効は止まりません。保証人は、主たる債務の時効が完成すれば、それを援用することができます(民法145条)。主たる債務が消えれば、保証債務も追って消える関係にあるため、主たる借主の時効を放っておいて保証人にだけ請求するのは、危うい進め方です。保証契約を書く側の論点は連帯保証契約書・連帯保証人承諾書で整理しています。
抵当権が付いている貸付では、抵当権は、債務者と抵当権設定者に対しては、担保する債権と同時でなければ時効によって消滅しません(民法396条)。債権の時効が完成していなければ、抵当権だけが先に消えることはない、ということです。逆に、債権の時効が完成して援用されれば、担保は意味を失います。個人間で抵当権を付ける場面は個人間の貸付に抵当権を付けるときで整理しています。
借主が時効を主張してきたとき:援用の意味と、「援用しない」と書く条項
援用の連絡が来たら、確認すること
借主から「時効なので払いません」という連絡が来ることがあります。最初に確認するのは、本当に時効が完成しているかです。起算日と満了日を契約書と入金記録から計算し直し、満了前に更新や完成猶予にあたる事実(一部の弁済、残高を認めた書面、猶予の頼み、書面による協議の合意、裁判所の手続)がなかったかを日付で並べます。援用は借主の意思表示で、それが来たからといって、すぐに債権が消えるわけではなく、完成している場合に、その効果が生じます。この確認の結果をどう受け止めるか、相手方とどうやり取りするかは、貸主ご本人が判断することです。
「時効を援用しない」と書かせても、効力はない
契約書や承諾書に、あらかじめ「時効が完成しても援用しない」と書かせれば安心、という考えがあります。しかし、時効の利益は、あらかじめ放棄することができません(民法146条)。貸付の時に、あるいは保証人の承諾書で、「主たる債務に時効が完成しても援用しない」と書いても、その部分は効力を認められないと考えるのが堅実です。この条項は、借主や保証人を強く縛っている印象を与える一方で、時効の管理には役に立たず、書面全体の信頼を落とすこともあります。時効の管理は、承認を取ること、期限を日付で確定させること、近づいたら手続に進むことで行います。
よくある失敗と直し方、ヒヤリングで確認すること
誤りやすい書き方と、直した書き方
貸金の契約書や承諾書では、時効に関わる次のような条項や運用が使われていることがあります。それぞれ、時効の面から見ると、どこがずれているかを整理します。
書き方の例(一般的な例) 時効に関わる書き方
返済の時期
理由時期を協議に委ねると、期限が決まらず、時効の出発点がいつなのか分かりません。最終期限を日付で置き、早く返す余地は別の文で残します。
時効の扱い
理由時効の利益は、あらかじめ放棄できません(民法146条)。書いても効力がなく、時効の管理にもなりません。
期限の利益の喪失
理由喪失の日が記録に残る方式にすると、残額全体の時効がいつから進むのか、貸主も借主も確認できます。
承認書の中身
理由何の債務を、いくら認めたのかが特定されていないと、承認の範囲が曖昧になります。
請求書の出し方
理由猶予の間の再度の催告には、完成猶予の効力がありません(民法150条2項)。
請求の相手
理由保証人への請求は、借主の時効を止めません(民法153条2項)。
ヒヤリングで確認すること、その理由
時効の確認は、書面を作る前の聞き取りで決まります。最後に払われた日、借主が最後に債務を認める言葉を発した日、返済期日を、時系列に並べると、どこから数えるのかが見えてきます。複数回に分けて貸している場合は、貸付ごとに期日が違うので、古いものから順に確かめます。
聞き取り票 貸金の時効を確認する前に
- 貸したのはいつか。何回に分けたか。2020年4月1日より前に生じた貸付はあるか。古い貸付には、現在の5年・10年の規定がそのまま当てはまらないことがあります。貸付ごとに分けて確かめます。
- 返済期日は日付で書かれているか。書かれていないなら、どう決めていたか。期日が日付で決まっていれば満了日を計算できます。決まっていなければ、起算点がいつか、争いになりやすい状態です。
- 分割払いか。期限の利益を失う条項はあるか。ある場合は「当然に」か「請求で」か。残額全体の時効がいつから進むかが変わり得ます。条項の文言を実際に読んで確かめます。
- 最後に払われたのはいつか。一部でも払われたことはあるか。一部の弁済は承認にあたる場合があり、そこから時効が新たに進むからです。通帳の記録で確かめます。
- 借主が最後に「返す」「待ってほしい」と言ったのはいつか。どの手段で。猶予の頼みや返済の約束は承認にあたる場合があります。メッセージの日時と全文を残します。
- これまでに請求書や内容証明を出したか。いつ届いたか。催告の6か月は到達から数えます。すでに一度使っているなら、再度の催告は効力がありません。
- 保証人はいるか。借主は何人か。借主は亡くなっていないか。請求や承認が及ぶ範囲が人ごとに違うからです。請求の相手を決める前に確認します。
- 借主の住所と連絡先は分かるか。請求書が届かなければ、猶予も更新も狙えません。住所が分からなければ、まず所在の手がかりを集めます。
- 借主に書面に署名してもらえる見込みはあるか。承認書、協議の合意書は、相手の署名が前提です。応じない見込みなら、別の手段の日程を早く決めます。
どの問いも、答えを時系列の一枚にまとめると、満了日の見通しが立ちます。
書き起こした条文例と、起きがちなこと
ここからは、時効の管理に使う条文の例を示します。いずれも一般的な例で、金額や日付、当事者の関係に合わせて書き直してください。
条文例条文例1 返済期限と期限の利益の喪失(時効の出発点を記録に残す型)
1乙は、甲に対し、本契約に基づく借入金元金○円を、令和○年○月○日限り、甲の指定する口座に振込送金して返済する。乙は、この期日より前に返済することができる。
2乙が前項の期日までに返済しなかったときは、甲は、乙に対し、書面又はメッセージアプリその他記録の残る方法で通知することにより、期限の利益を失わせることができる。この場合の期限の利益の喪失の日は、通知が乙に到達した日とする。
3甲及び乙は、本契約に基づく返済の状況、通知の日時及び到達の日を記録し、本契約の終了後も、完済から○年間は保存する。
返済期限を日付で置き、期限の利益を失う日を通知の到達日に結び付けています。分割払いの契約でも、回ごとの期日を表にして、各回の期日を日付で置きます。
条文例条文例2 残高の確認と債務の承認(時効の更新を狙う型)
1乙は、令和○年○月○日付金銭消費貸借契約に基づき、甲から借り受けた元金○円のうち、令和○年○月○日現在、別表記載のとおり○円が未返済であり、同額の支払義務を負っていることを確認し、これを承認する。
2乙は、前項の債務について、その存在又は金額を争わない。
3乙は、前項の債務を、令和○年○月○日限り、甲の指定する口座に振込送金して返済する。分割して返済する場合は、別表の回数及び期日による。
4本条は、乙が自らの意思で債務を承認することを確認するものであり、甲は、乙に対し、署名を強要していない。
承認は、原因と金額を特定して書きます。最後の項は、署名が自分の意思でされたことを確認する文で、強く迫って書かせたものではないことを残す意味があります。残高の別表は、これまでの返済を計算で合わせます。
条文例条文例3 権利についての協議を行う旨の合意(貸金版)
1甲及び乙は、甲が乙に対して有する、令和○年○月○日付金銭消費貸借契約に基づく貸金返還請求権(以下「本件債権」という。)の支払方法及び時期について協議を行うことに合意する。
2協議を行う期間は、本合意の日から○か月間とする。
3甲又は乙は、前項の期間中であっても、相手方に対し、書面(電磁的記録を含む。)により、協議の続行を拒絶する旨を通知することができる。
4本合意は、民法第151条第1項の規定による時効の完成猶予の効力を生じさせることを目的の一つとするものであり、乙が本件債権の存在又は金額を認めるものではない。
協議の合意は、書面で、協議の対象と期間を特定して作ります。口頭やメッセージの「話し合いましょう」だけでは足りません。最後の項は、協議に応じることが債務の承認と読まれることへの不安を和らげて、借主に署名してもらいやすくする工夫です。合意の名義は貸主と借主の双方です。
三つの条文例のうち、どれを使うかは、借主の姿勢で決まります。残高に争いがなく、払う意思があるなら、条文例2の承認と弁済計画に進みます。額や原因に争いがあって、すぐには認められないが話し合いには応じる、という状態なら、条文例3で猶予を確保します。連絡が取れない、応じない、という状態なら、催告の6か月で、裁判所の手続に進むかどうかを決める時間を取ります。いずれの書面も、名義は貸主ご本人と借主で、相手方とのやり取りと発送はご本人が行います。
よくあるご質問
貸金の時効は何年ですか。
貸主が返してもらえる時期になったことを知った時から5年、返してもらえる時期になった時から10年の、早いほうで時効にかかります(民法166条1項)。貸金は返済期日が分かっているため、ほとんどが「返済期日の翌日から5年」で数えます。分割払いの場合は、回ごとに期日が違うので、回ごとに数えます。
5年が過ぎたら、貸したお金は自動的に消えますか。
自動的には消えません。借主や保証人が時効を援用して初めて、裁判所が時効を前提に判断します(民法145条)。援用がされるまでは、請求する権利は残っています。ただし、援用されると、その効力は数え始めた日にさかのぼります(民法144条)。
借主が少しだけ返してくれたら、時効はどうなりますか。
一部の弁済は、債務の承認にあたる場合があり、承認があると時効はその時から新たに進行を始めます(民法152条1項)。具体的に承認にあたるかは事情ごとの判断なので、入金日、金額、振込名義を記録しておき、必要なら残高を認める書面を作ります。
保証人に請求すれば、借主の時効も止まりますか。
止まりません。保証人への請求による完成猶予は、保証人との間だけに生じます(民法153条2項)。一方、借主への請求による完成猶予や更新は、保証人にも及びます(民法457条1項)。保証人がいる貸付では、借主にも同じ時期に請求や承認の書面を取ります。
借用書に「時効を援用しない」と書いておけば安心ですか。
安心できません。時効の利益は、あらかじめ放棄することができないので(民法146条)、貸付や保証の時に書いても効力はありません。時効の管理は、返済期限を日付で書くこと、承認の書面を取ること、近づいたら協議の合意書か手続に進むことで行います。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の契約への当てはめは、当事者の関係や取引の実態によって結論が変わることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています。参考: e-Gov法令検索